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異世界に呼ばれたおっさん、異世界の知識がないけど頑張る。  作者: うっちー(羽智 遊紀)
第1章 おっさん異世界に召喚される

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第11話

 健太の言葉に周囲を静寂が包む。周りにいたマドレや女性達は勇者が現れたような期待に満ちた眼差しを。エルミは嬉しそうな表情になりながらも、困った顔をしていた。


「どうした? 俺じゃ頼りないか?」


「いえ! そんな事はありません。むしろ嬉しいです。ケンタ様にそこまで言っていただけるなんて。ですが良いのですか? 今日の晩で戻るのですよ?」


 ツラそうな表情を浮かべているエルミに、健太は場所を変える事を提案した。二人で近くにあった食堂に入ると個室を頼む。


「任せときな! 個室でユックリと話をしたら良いさ。料理は適当に持って行くからね。まあ、今は塩が少ないから味付けも出来ないけどね。しっかりと説明するんだよ! エルミちゃん!」


 マドレは食堂の女将だったようで、店に入るとすぐに個室を用意してくれた。


「マドレおばさんは私の乳母だったのです。こんな小さな領地だから、みんな家族みたいなんですよ」


「なるほどね。それで彼女は君に親身になってくれたんだね」


 用意された食事をしながら健太はエルミから事情を聞いた。シャムシン領では塩が産出されておらず、隣のブィチコフ領から購入をしていた。だが、ここ数年は徐々に塩の単価が上がってきており、今年に入っては去年の倍近い金額が提示されていた。


「それは酷い。ステンカさんは話し合いはされなかったのか?」


「もちろん父は話し合いに行きました。ですが、ゲオルギーが出てきて『今年は不作の年だ。嫌なら買うな!』と一方的に言ってきたのです。その時ブィチコフ家の当主。彼の父は気弱そうに笑っているだけでした」


「なんだそりゃ」


 エルミの説明に健太は眉をしかめる。自分の会社にも似たような人物がいた。自分の部下に対して高圧的な対応を取り、上司の課長にも反抗し皇帝のように振る舞う。そしてこちらとの交渉時には話を聞かずに自分の思い通りにならないと怒鳴り散らす。


「どこにでもいるんだな。迷惑な奴は」


「後で調べた所では不作でもなく、他の領地には値段を下げて販売していたのです。懇意にしていた塩田の主に聞いても『申し訳ない。彼には逆らえない』と悲しそうに言われました」


 呆れたように話を聞いていた健太にノックの音が響く。


「飲み物を持ってきたよ。ケンタ様。アイツの狙いはエルミちゃんだよ! 才媛と言われ、文武両道で可愛いこの子を自分の元に嫁がせたいのさ! 普通にお願いしても無理なのが分かっているからね!」


「もう。マドレおばさん。ケンタ様にそんな話をしなくても――」


「いや。今の話を聞いて俄然やる気が出た。思いっ切りゲオルギーって奴の鼻を明かしてやろう。それで必要な塩は?」


 ビールのような物を渡されながら、怒りで真っ赤な顔になったマドレから説明を受ける。止めようとするエルミに健太が遮ってきた。なぜかやる気に満ちている健太を見ながら恐る恐るな感じで確認する。


「先ほども聞きましたが本当によろしいのですか? 今日帰る時にもう一度来るかの確認があります。古文書にはこう書かれていました。『選択肢が与えられた。私はこちらに来る事を選んだ』。その後は勇者様は何度も異世界とこちらを行ったり来たりし、世界の改革をされました。しかし、最後は戻ってこられなかったそうです」


「どうして戻って来なかったかは書かれているのかい?」

「いえ。そこまでは書かれていませんでした」


 健太はエルミから話を聞いて軽く笑う。


「つまりは行ったり来たりは出来るし、自分の意思かどうかは分からないが、来ない選択肢も選べるって事だろ? 今回くらいはおっさんにも格好付けさせてくれ。それで塩はどのくらい必要なんだ?」


「ケンタ様……」


「さすがは異世界の勇者様だよ! ほらエルミちゃん! ケンタ様にお願いしたら良いんだよ!」


 マドレの言葉にエルミは頷くと健太に状況と必要な塩の量を伝えた。


「――。なるほど。塩が500キログラム必要なのか」


「まずは急場をしのぐためですが……」


「安定的に供給しないと駄目なのか」


「いえ。何度か持ってきて頂ければ大丈夫です。今、父が視察に出かけているのは違う領地から塩を買うための街道整備をするためですので」


 健太は必要な塩の量を聞いて思わずうめき声を上げそうになった。金額的には問題ないが、運ぶためにはどうすればいいのか答えが出なかった。


「やはり難しいでしょうか?」


「いや。買うのは問題ない。近所のホームセンターで売ってたからな。後はどうやって運ぶかが問題だ」


「運ぶのにつてはケンタ様のアイテムボックスを使えば良いかと」


「それの使い方が分からないから困っている」


 苦笑している健太にエルミが説明をする。


「右手をかざして『現れよ!』と唱えると何かが出てくると古文書には書かれていました」


「へぇ。右手をかざして『現れよ!』ねぇ。――。うわぁ! 出てきた。これって……」


 健太の目の前にステータス画面が表示された。エルミに召喚される前に出てきた画面を思い出す。


「これがアイテムボックスか……」


 全くの見当違いな発言だったが、周りにいたエルミやマドレには見えないために間違いには気付かないのだった。

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