第105話
「おい、そろそろ紹介してくれてもいいじゃないか」
「ええ。私も待ちきれないのですよ。早くお願いしますよ」
デュオとヴァレンから紹介を促されたステンカは、大きく頷くと近くに居た執事に命じてコーヒーを運ばせる。そして胸を張って説明を始めた。
「これが、異世界の勇者であるケンタ様から授かったコーヒーです。これは私が配合を考え、水出しで12時間を掛けて抽出しました。味もまろやかになっており、始めてコーヒーを飲まれる方にも満足が頂けるかと。それに、これだけではありません。詳細は、Ftその時になってのお楽しみですが――。ど、どうされました?」
饒舌に話していたステンカだったが、目の前の二人の微妙な顔に怪訝な表情を浮かべる。ステンカの顔を見て自分達の言葉が理解されていないと感じたデュオとヴァレンは嘆息すると、肩をすくめながら補足を始めた。
「相変わらず、勘違いが激しいの。儂らが紹介してくれといったら、ステンカの話に出ていた異世界の勇者であるケンタ殿であろうが」
「そうですよ。コーヒーにも当然興味はありますが、それだけのために我ら高位貴族が日程を合わせてくるわけないでしょうが。それだったら、ステンカを呼び寄せますよ」
呆れた表情になっている二人に、ステンカは赤面すると走って逃げだそうとする。
「おい、それも相変わらずだな。逃げても無駄だぞ」
「そうですよ。そもそも自領に居るのに、どこに逃げようと? いいから、ケンタ殿を連れて来たらいいのですよ。もちろん、召喚の巫女であるご息女もですよ」
振り返って逃げようとした瞬間、両肩を押さえられたステンカにデュオとヴァレンの声が耳に届く。
「まあ、いいか。このままステンカに案内させようではないか」
「いいですね。学生時代のように探すのに半日掛かるのも勘弁して欲しいですからね」
「そ、そんな逃げ出すだなんて――」
「「いま、逃げだそうとしただろうが」」
二人からツッコまれたステンカは、諦めたように頷くと二人を健太の元に案内した。
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「お父様。丁度良かった……。なぜ連行されているのですか? 今度は何をされたのですか?」
「いやいや、いつも私が連行されているような話し方はしないでくれないか? 勘違いされるだろう? こちらはデュオ様とヴァレン様だ」
「デュオ=ルドーワだ。召喚の巫女殿」
「ヴァレン=デーインタ。初めましてではないよ。小さな頃に会っている。まあ、乳飲み子だったらね。覚えていないだろうが」
「失礼しました。デュオ=ルドーワ様、ヴァレン=デーインタ様。挨拶が遅くなりましたらエルミ=シャムシンでございます。異世界の勇者であるケンタ様を召喚した巫女であり、そちらで連行されているステンカの娘でございます」
「はっはっは! ステンカと違ってしっかりとした娘ではないか!」
エルミの堂々とした挨拶にデュオが大声で笑う。ヴァレンも苦笑しており、ステンカは娘の挨拶に恥ずかしそうにしながら健太を呼んでくるように伝えた。
「分かりました。では、ケンタ様の紹介とコーヒーの試飲を一緒にして頂きましょう。その前にミナヅキちゃんのラテアートも満喫して頂きましょう。デュオ様、ヴァレン様。どうぞ、こちらに」
エルミの案内で孤児院に新設された貴族用の建物に案内される。貴族用とは言っても、急造された物であり粗末な感じはしていた。二人は外観に残念そうな顔をしながら、室内に入ると驚愕の表情を浮かべる。
「なぜ、これほど涼しいのだ? 魔法を使っているか?」
「いえ、これはケンタ様が異世界から用意して下さったエアコンなる魔道具です」
「ほう。エアコンですか。これは素晴らしいですね。暑さで苦しんでいる王都でも活躍できそうだ」
「残念ながら魔力で動く物ではありません。私の国の電気で動く物になりますので、そう簡単にお売りできませんよ」
二人が部屋の涼しさに感動していると、健太が説明をしながら入ってきた。二人からの視線を感じた健太は、ステンカから習った高位貴族への挨拶をする。
「お初にお目にかかります。召喚の巫女によって、こちらで活動している健太と申します。本日はお忙しい中、このような場所まで来て下さり感謝しております」
「ほう。異世界の勇者殿は挨拶もしっかりとされておる。500年前の勇者殿とは大きく違うようだな」
「そうですね。これなら十分に領主としても務まるでしょう。むしろ王都に来てもらうのもいいのでは? 年齢が気になりますが、それも合わせての知識の勇者なのでしょう」
健太の挨拶にデュオとヴァレンが感心したように頷きながら感想を述べていた。その内容にエルミの顔が変わるのを見た二人は、安心させるように笑いかける。
「安心するがいい。異世界の勇者殿を王都へ呼び寄せる予定はない。まあ、今のところだがね」
「はっはっは! エルミ嬢の勇者殿を取ったりはせんから安心しろ。では、早速コーヒーをご馳走になろうかの。数カ月前も準備したのだから期待して構わんのだろ?」
二人からの視線を受けて、健太はおおらかに笑いながら頷いた。
「期待外れにならない事を保証いたしますよ。こちらの世界で初めて公式の場で提供させて頂くコーヒーですからね。ラテアートを作る者にも驚かれると思われますよ。では、どうぞ」
健太の案内を受けて二人は楽しそうな表情をしながらついて行くのだった。




