第104話
「ミナヅキちゃん。嘘っすよね? 俺との契約が解除できるなんて嘘っすよね?」
『ふふーん。知らないのー。ケンタ様のご飯やお菓子を独り占めするゲンナディーなんて知らないのー』
「違うっすよ! 話を聞いて欲しいっす! 違うんっすよ!」
『ふーんだ』
ゲンナディーとミナヅキを眺めながら健太が苦笑していた。
「なんで、あっちは浮気がばれた男と女みたいな会話をしてるんだ?」
「なんでも、ゲンナディーが食べたチョコレートがミナヅキちゃんのだったらしくて」
「なるほどな。それはミナヅキちゃんは怒るだろう。ちょっとお菓子の差し入れでもするか? このままだとテラアートに影響が出そうだからな。ミナヅキちゃんー」
事情を知っているエルミが健太に説明する。その話を聞いて健太がイテムボックスから栄養補助食品を取り出すとミナヅキに近付くと、そばに来た事に気付いたミナヅキが満面の笑みで寄ってきた。
『あー、ケンタ様だー。その手に持ってるのなにー? 袋? お菓子ー?』
「ああ、この中にお腹が膨れるお菓子が入っているんだよ。ミナヅキちゃんには大きいかな?」
『そんな事無いよー。ケンタ様が持っているのが欲しいー』
「え!? 見た事無いお菓子っすか? ――。いや、なんもないっす。俺は何も見てないっす。これは全部ミナヅキちゃんのお菓子っす」
健太が持っている栄養補助食品を見て、ゲンナディーも目を輝かせながら近付いてきた。手を伸ばそうとしたが、ミナヅキの視線を感じるとユックリと引っ込めて愛想笑いをして健太に話し掛けてきた。
「え、えっと。ケンタ様に確認っすが、俺もこの格好をするんっすか?」
「仕方ないだろ。なおからのプレゼント袋の中に入っていたんだから。いいじゃないか。もの凄く似合っているぞ」
『そこは仕方なしに認めてあげるのー。ゲンナディーにも似合う服装があったのー』
黒装束のゲンナディーが背中にノボリを背負って微妙な顔で立っているのが健太の目に入った。なにを思って直章が用意したのかは分からなかったが、ノボリにはなにも書かれてなかったのでエルミに頼んで【歓迎! 喫茶店はこちらです】と書いてもらい、ゲンナディーに持たせていた。
「微妙にバランスが悪くて歩きづらいっす。手で持ったら駄目なんっすか?」
「ああ、まだ渡していないが、後でお供の人に渡すためのお土産箱があるからな。ステンカ殿とミナヅキちゃんが貴族達の相手をしている間に配ってくれ。そのために背中にノボリを差しているからな」
『頑張るのだよー。ゲンナディー。その頑張り次第でチョコレートを食べた事は許してあげるのー』
「マジッすか! 頑張るっすよ! ケンタ様! そのお菓子の入っている箱を下さい! 何個でも持ちますよ!」
「お、おお。やる気のあるのはいい事だ。エルミに箱を用意してもらっているから確認してくれ。無理して運ぶ必要はないからな。何回かに分ければいいから」
健太の言葉を聞きながらもミナヅキの台詞を聞いてやる気に満ち溢れるゲンナディー。そんな二人のやり取りを見て苦笑するエルミ。そんなやり取りをしている中、ステンカが部屋にやってきた。
「そろそろ順番に到着しております。ゲンナディーは案内を頼むぞ。エルミは会場で待機。ミナヅキちゃんは出番があるまで控え室でお待ち願えますかな? ケンタ様は私と一緒に出迎え準備を」
次々と指示を出していくステンカは、まさに領主であり一同が感心している中、急に不安そうになる。
「ケンタ様、私の作ったコーヒーで皆さんは満足してくださるでしょうか? やはりケンタ様が作られた方が――」
「いやいや、今となってはステンカ殿の方がコーヒーを淹れるのは上手いでしょう。それはみんなで確認したから間違いないですよ。自信を持って下さい、ステンカ殿」
「お父様も最後までしっかりとして下されば完璧ですのに……」
エルミが残念そうな顔でステンカを見ていたが、当の本人は緊張のあまりそれどころではないようだった。
◇□◇□◇□
「よ、ようこそ、お、お越し下さいました。皆様のご来訪を心待ちにしておりました」
「はっはっは! 相変わらずステンカは緊張するのう。今日はこちらの無理を聞いてもらって感謝しておるぞ」
「ええ、私も感謝しておりますよ。先に他の貴族を呼んだと聞いたときには怒りが沸きましたが、話を聞くと私達のために特別な趣向を懲らして下さるのでしょう?」
「はっはっは! 相変わらず意地が悪いのう。そんな事を言っときながら喜んでおったではないか」
緊張した面持ちでステンカが挨拶すると、大笑いしながら年老いた男性が肩を叩いてきた。その横では神経質そうな男性が眼鏡を指で押し上げながら嫌味を言ってきた。そんな神経質な男性にの肩も叩きながら年老いた男性がからかう。
「そ、それは申し訳ありません。デュオ様、ヴァレン様」
「おい、学院の同級生だった相手に敬語を使うなよ。今は誰もおらんぞ?」
「デュオ、あまりステンカをからかうのではありませんよ。彼が本番に弱いのは知っているでしょうが」
「そうはいっても、ヴァレンも面白がっておるではないか」
デュオとヴァレンと呼ばれた二人が仲良さそうに話している。そんな様子を見ながらステンカは困ったように笑っていた。




