第103話
「あー。ケンタ様は人を幸せにし過ぎてダメにする人っすねー」
食後のコーヒーを飲みながらゲンナディーがまったりとしていた。あれほど食べたにも関わらず、消化しきったようで出されたデザートも満喫した。そんな様子をみて一同から苦笑が集中する中、ミナヅキがゲンナディーが近付く。
『ゲンナディー食べ過ぎ。ケンタ様が持ってこれる量には限界があるの分かってる? それを全部食べる気? 許さないよ? 分かってる? ねえ、分かってるかって聞いてるの』
「え? ミナヅキちゃん? ちょ、ちょっと目がマジなんっすけど! 大丈夫っすよ! ミナヅキちゃんの分まで食べちゃう事はないから安心して欲しいっす。怖いっす! 本当に勘弁して欲しいっす」
ニコニコと笑いながらも、いつものように間延びした喋り方になっていないミナヅキにゲンナディーが顔面蒼白で後ずさりしながらコクコクと頷く。一同の目には反省しているように見えたが、ミナヅキの怒りは収まらないらしく、ゲンナディーの周りを水が激しく蠢きながら包み始めた。
「よし、ミナヅキちゃん。それくらいにしてやってくれ。ほら、チョコレート付きのクッキーだぞ。これはゲンナディーも食べてないやつだ」
『わーい、ケンタ様大好きー。ゲンナディーは命拾いしたのー』
「え? ミナヅキちゃん? 命拾いってなんっすか? まさか本気? 俺ってミナヅキちゃんの契約者なんっすよね?」
『いつでも破棄できるのー』
「ちょっ! マジっすか!」
ゲンナディーとミナヅキのやり取りを眺めながら、健太は苦笑をしながらアイテムボックスからお菓子を取り出すとミナヅキに手渡した。
「いいですね。ゲンナディーは色々食べられるし、ミナヅキちゃんはお菓子をいっぱい貰えるし」
「安心してくれ。エルミの分もあるぞ」
「そんな! 私が食いしん坊みたいじゃないですか」
真っ赤な顔になりながらも、太からまんじゅうや羊羹を受け取ったエルミは、満面の笑みを浮かべながら幸福に包まれた顔で食べ始めた。そんな様子をクスクスと笑いながら見ていたルイーゼだったが、今回の人員不足を解消するための方策を健太に確認してくる。
「ああ、その件だが……。仕事を引退している老人を活用できないかと思っててね。ステンカ殿に確認を取っている最中だ」
「ご老人を活用ですか?」
「ああ。家で内職をしている人を中心に集める予定だ。情報を集めてみると、内職は日銭を稼ぐために作っているらしいからね。それに、たいした金額にならないらしい。それなら時給制にして日払いすれば来てくれると考えているんだよ」
この後の募集で時給の高さに老人達が殺到した。健太とステンカは全員を雇用し、ローテーションを組んで喫茶店のバックヤード対応の他に、孤児院の子供達にそれぞれの持っている技術を伝える役目も担う教師としての役目も依頼するのだった。
◇□◇□◇□
健太の異世界の行き来は半年ほどになり、領地経営も順調に行っていた。相変わらず領主には就任していないが、領民達からは領主として認められており、エルミとの結婚も秒読みだと噂されていた。
「ケンタ様。そろそろ大仕事が始まりますな」
「そうですね。その為にここまで頑張ってきたのです。成功するのは決まってますが、大成功としたいですね」
ステンカと健太が話をしていると、ふよふよと擬音が聞こえるような動きでミナヅキが近付いてきた。
『ケンタ様ー。今日のラテアートは私が好きに描いていいのー?』
「ああ、ミナヅキちゃんの好きなように描いて欲しい。その方が皆が喜ぶからな」
『分かったのー。じゃあ、もうちょっと練習してるー。ゲンナディーは早く付いてくるのだー』
ミナヅキの後ろに付き従っているゲンナディーが苦笑を浮かべながら抗議する。
「分かったっすけど、ケンタ様と俺の扱いが違い過ぎないっすか?」
『しかたないのー。ゲンナディーの役割はそういったものなのー』
「酷い!」
ゲンナディーが顔を覆って嘆いているのを引っ張るようにミナヅキが会場に向かっていく。そんな2人の様子を見ながら、健太とステンカは顔を見合わせると笑いあった。
「ケンタ様」
「おお、エルミ――」
「どうされましたか? おお、良く似合っているぞ。エルミ」
「ありがとうございます。お父様」
部屋にやってきたエルミの問い掛けに振り返った健太は、その姿を見て思わず硬直する。同じようにステンカがエルミを見て大絶賛をしている中、硬直を続けている健太にエルミが声を再び掛けた。
「あ、あの。ケンタ様?」
「あ、ああ。良いじゃないか。その服装はどこで?」
「ナオアキ様に頂きました。初めて見る服装ですが、着用の仕方まで教えて下さるなんて優しい方ですね。少しスカートが短い気がしますが」
エルミは東京で開催されるビッグイベントに行けば出会えそうなコスプレイヤーな格好をしていた。フリルがたくさん付いている衣装で、エルミの容姿を引き立てる黒色で統一されていた。
「あ、あの。どうでしょうか?」
「あ、ああ。よく似合っているよ。なおも写真を見せただけで、ここまで似合う服装をよく探せたな」
直章のセンスの良さに呆れながら、健太は顔を赤らめてエルミに賞賛を送るのだった。




