第102話
「今、対応している支払場所を2人にすればいいのでは?」
「それで問題は解消しますか? バックヤードの人員を増やした方がいいのでは? 農業をされている方で余剰となっている人員はいないのでしょうか?」
「いやいや。農業が主体の街ですよ。人員に余裕があるわけはないですな。むしろ人が足りずに生産性が上げられなくて苦慮しているのですよ」
ステンカの提案に健太が応える。それに対してステンカが反論すると、健太はしばらく考え込んだ。2人が検討を始めて1時間ほどが経過しており、白熱した内容をゲンナディーが必至でメモを取りながら休憩を求めてきた。
「文字を書き慣れていないからツラいっす! お腹減ったっす! ケンタ様! 休憩するっす!」
「そうだな。少し休憩をしようか。頑張った褒美にカップラーメンやカップスープを食べるか? パンもあるぞ。欲しい物を言ってくれ」
「ちょっ! 選んでいいんっすか!? どうしよう。よし、透明の麺のやつにするっす!」
健太の言葉に目を輝かせたゲンナディーが、春雨スープを希望する。健太はアイテムボックスから次々と種類を出すと机の上に並べ始めた。
「さあ、この中から好きなのを選んでいいぞ。ジュースも欲しかったら出してやる」
「マジっすか! さすがはケンタ様っす! オウレンジイが飲みたいっす! あと、お菓子も食べたいっす」
ちゃっかりとデザートまで要求してきたゲンナディーに苦笑しながらも、健太はオレンジジュースとあんパンを取り出すと手渡した。
「春雨スープが出来るまでは時間が少しだけ掛かるから、これ食べて待ってろ。デザートは別に用意してやる」
「パンっすか? 上は焦げてるわけじゃないんっすね。へー、じゃあ一口。……。うまっ! なにこれ! 滅茶苦茶美味いじゃないっすか! こんなパンもあるなんて凄いっす!」
一口食べて虜になったゲンナディーが満面の笑みで一気に食べ終わる。爽快な食べっぷりに健太はもう1個取り出すと手渡した。
「ゲンナディーを見ていると向こうにいる部下を思い出すよ。なおって名前だが良い奴でな」
「そのなおさんって方は俺と一緒で優秀な方なんっすか?」
パンを頬張りながらも器用に喋っているゲンナディーに健太が笑いながら答える。
「いや、奢りとなったら上手い事を言って、俺から金を巻き上げる奴だよ」
「なんっすかー! そんな酷い事を俺はしないっすよー」
プリプリと怒っているゲンナディーを眺めながら、健太は自分とステンカのパンを取り出すと、一緒に食事を始めた。
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「なにかいい案はありましたか?」
「おお、エルミ。手伝いは終わったのか?」
「ええ、大丈夫ですよ。お父様。昼になりましたからね。皆さんも仕事に向かいました。そして、本日分のコーヒーも完売です」
若干疲れた顔のエルミがステンカに話しかけた。今回も閉店まで販売数はもたずに売切れ閉店となっており、相変わらずの盛況ぶりだった。ステンカは売り上げに喜びながら、エルミに席を譲るとコーヒーを淹れ始める。
「お疲れ。今、ゲンナディーとステンカ殿と一緒に食事をしてたところなんだ。ルイーゼさんも呼んで一緒に食べないか? その間にコーヒー牛乳を作っておくよ」
「分かりました! すぐにルイーゼを呼んできます!」
勢いよく返事をして走り去ったエルミを見ながら、健太はアイテムボックスからジャムパンとあんパンを取り出し、その他にカップスープを用意する。
「ハアハア。つ、連れてきました!」
「な、何事ですか!? ちょ、ちょっと休憩させてください……」
「いやいや、エルミ。そんなに急がなくても逃げやしないぞ」
必死の表情をしているエルミに笑いながら、健太はパンを手渡す。ビニール袋に入っているパンを取り出すと、目を輝かせながら食べ始めた。
「あれ? ゲンナディーから甘い物が入っていると聞いたのですが――。ん! きた! もの凄く甘い衝撃がきましたよ! あまーい! おいしー! ねえ、ルイーゼ。あれ? ルイーゼ?」
普段では見られない年相応なテンションで美味しそうに食べているエルミが、ルイーゼに話し掛ける。だがルイーゼから反応がなく、呆然としているルイーゼの肩を揺すると我に返ったかのように話しだした。
「おいしー! なにこれ! パン!? これがパンなの? あまりにも美味しすぎて硬直しちゃったわ! エルミ様はいつもこれを食べてるの?」
「私も初めてよ! こんな素晴らしい物が食べられるなんて! 今までは考えられなかった。本当に有り難うございます! ケンタ様のお陰です」
「喜んでくれたようで良かったよ。カップスープも出来上がっているから飲んでくれ。お代わりもあるぞ」
エルミとルイーゼの話しを聞きながら、嬉しそうに健太はアイテムボックスから次々とカップスープの素を取り出して二人に選ぶように伝えた。
「あー! ずるいっす! 俺も食べたいっす! その、中身が赤いパンも食べたいっす!」
「イチゴジャムパンも食べたいのか? こっちはどうだ? クリームパンだぞ」
健太が机に並べ始めた様々なパンを目にしたゲンナディーは、全種類を食べきると膨れ上がったお腹をさすりながら苦しそうにしていた。
『ゲンナディー、食いしん坊ー。食べ過ぎなのだよー』
「や、止めて! やめて、ミナヅキちゃん! お腹の上で飛び跳ねるのは止めて欲しいっす!」
ミナヅキが嬉しそうにお腹の上で飛び跳ねるのをゲンナディーは必死の表情で止めるのだった。




