第100話
記念すべき100話になりました! ここまで続けられたのは皆様のお陰です。感謝感謝です!
「なるほど。それほど広大な領地を統治されてると」
「ええ。我が国一番の資産家でもありますな」
ステンカの説明を聞いた健太が感心したように頷く。横で一緒に話を聞いていたゲンナディーが頬を膨らませて抗議してきた。
「俺もそう言ったっす! ケンタ様! 同じことを言ったっす!」
「ああ。分かった。分かった。それで、これからの事はどう対応しますか?」
「ケンタ様の対応が雑過ぎる!」
ゲンナディーの嘆き声を軽く流しながら健太がステンカに確認する。様々な貴族から依頼を受けているため、誰を呼ぶかによって今後の対応が変わると感じたからである。
「そうですね。ケンタ様は誰が一番だと思われますか?」
「え? やっぱり一番力のある貴族からでしょうか」
健太の言葉にステンカが首を振って否定する。
「いえいえ。近場の方をまとめてお呼びします。あまりにも力のある方を贔屓すると、競い合っている別の貴族からの嫉妬されますからな」
「なるほど。そういった対応も覚えなくてはダメですね。いや、まだ私が領主を引き受けると言っているわけではないですよ。これからの仕入れをどうするかで変わってきますから」
「残念です。孫の顔が早く見られると思ったのですが」
目を輝かせて自分を見てきたステンカに、慌てて健太が領主になる事を否定する。残念そうにしているステンカに、健太は苦笑しながら今後の方針を話し合った。
「残念」
「エルミ様。いつまで、木の陰から盗み聞きを――」
「しっ! ケンタ様にバレるじゃないですか! ケンタ様が領主を引き受けると言ってくださったら『話は聞きました! 嫁になる準備は万端です!』と畳みかける予定ですから静かにして下さい」
エルミとルイーゼの女性二人が、健太とステンカ達との会話を盗み聞きしていた。ステンカがなんとか健太を領主にする話に持っていこうとしているが、健太は上手く流して言質を取られない様にしており、そのたびにエルミは一喜一憂をしていた。
「お父様! 頑張って! あー。その言い方ではケンタ様に伝わりません。ケンタ様も素直に引き受けて下さればいいのに」
「あ、あの。エルミ様」
「しー。いい感じ! そうです。お父様。そこで言質を取るのです」
「エルミ様」
「なんですか! バレると――。え?」
『ねーねー。なにしてるのー。私も混ぜてー』
袖を引っ張ってくるルイーゼに、エルミが若干苛立ちながら振り返ると、好奇心旺盛な瞳を宿したミナヅキが目の前にいた。見つかった事で硬直しているエルミに、ミナヅキは首を傾げながらも楽しそうに気の陰に隠れ始める。
『それでー。この後は何をするのー?』
「いえ、特に何も……」
『えー。つまんないー。ケンタ様ー。お菓子頂戴ー』
ワクワクしながら続きを希望したミナヅキに、エルミが何もない事を伝えるとつまらなさそうに頬を膨らませて大声を出しながら健太の元に飛び立った。
「ん? マシュマロでいいか? ……。なにしてるんだ? エルミ? それにルイーゼさんも。盗み聞きか?」
木の陰から頭だけ出している二人に健太が問い掛けると、ルイーゼは慌てて健太の元に駆け寄ると説明する。
「私は何もしていません。エルミさんに付き合っていただけで」
「あー。ルイーゼ! 裏切らないでよ!」
「裏切るも何も、私は一緒にいただけじゃないですか!」
口論を始めた二人に健太は苦笑しながら、ステンカやゲンナディー達関係者を含めて話し合いをする事を伝えた。
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「よし、せっかくだからコーヒーを淹れようか。ステンカ殿も一緒に手動での淹れ方を教えますよ。それと、今回はこのような物を用意しました」
健太はアイテムボックスから大きなガラス製品を取り出す。
「これは? ガラス? こんな精密な物が作れるとは、やはりケンタ様の国は技術力が違いますな」
「水出しコーヒー器具です。ここに水を注ぐと、ユックリとコーヒーが抽出されます。時間は8時間から1日くらいですね」
孤児院の一角にある調理場を借りて、セッティングをした健太が楽しそうに語る。今までの抽出よりも時間が掛かる事に驚いたステンカだったが、大貴族相手に提供するに相応しい逸品である事に気付く。
「い、一日? それほど時間を掛けて抽出するなら、さぞかし貴重な時間になるでしょうな。こちらの練習は必要ないですか?」
「そうですね……。いや、練習は必要でしょう。豆と水の量を色々と試して、こちらの世界で最適な味を追求しましょう。ステンカ殿の好みを全面に出して、店主こだわりの味と売り出してもいいと思います」
「店主こだわりの味……」
健太から自分好みの味にした上で、店主の味として提供して構わないとのお墨付きにステンカは目を輝かせながら器具とコーヒー豆の説明を受けた。
「ケンタ様。孤児院での売り上げは順調との事です。この調子で売り上げが続けば、孤児だけでなく一時預かりの子供達も増やせそうです。これで、食事に困る子供がいなくなりますね。本当にケンタ様には感謝の言葉しかありません」
「エルミやステンカ殿にはお世話になっているからな。気にしなくていい。子供達の笑顔が増えるのは俺も嬉しいからな」
涙を浮かべながらルイーゼが報告するのを聞いて、健太は照れくさそうにしていた。