第二話
グレイスに駆け寄って来た男性こと、エリックは夜のお空のような漆黒の艶やかな黒髪に、海のような青い澄んだ瞳をした…とてつもなくかっこいい男性でした!
エリックは、小さなお魚の男の子が今まで見てきた男性の中で一番かっこよかったのです。
エリックは、グレイスの頭一個ぶんくらい背が高くて、2人が並んでいる姿はまるで仲の良い兄妹のようでした。
「見て、エリック! このお魚さん、とぉーってもキレイでキラキラでかわいいでしょ♡?」
グレイスは、両手の中にいる小さなお魚の男の子をエリックに見せました。
「おぉ、本当に綺麗だ…!」
(僕、『きれい』なんて言われたの初めてだ…!しかも、こんな素敵な男の人と女の人に言われるなんて…嬉しい…。)
「ねぇ、エリック。このお魚さん、お城に連れて帰りましょうよ!」
(ふぁっ!?お城に連れて帰って、僕を食べる気なのかな!?それに、お城って…この2人って一体何者なんだろう?)
「このお魚さん、私の妹にするの!お城のガラス職人さんにこの子のおうちを作ってもらいましょう!そうすれば、毎日この子と一緒にいられるわ!」
(妹って…!僕、男なんだけどー!? いや、そんなことよりも!僕はこの海から離れたら泡になって消えてしまうんだ!だから、お城なんて行けないよー!)
小さなお魚の男の子は、海からクジラ一頭分の距離をはなれると泡になって消えしまうのです!
「グレイス、お魚さんは君の妹にできないよ。海に返してあげよう。」
「えーっ!どうして?」
「お魚さんには海の中にお家があるんだよ。そのお家でこの子の家族がこの子の帰りを待ってるはずだよ。この子をグレイスが連れて帰ったら、この子は家族と離れ離れになってしまうんだよ?」
エリックは、グレイスに優しく言いました。
「そっか…。 ごめんね、お魚さん。今、海に返してあげるわね!」
グレイスは、小さなお魚の男の子を海に返してあげました。
(ふぅ…。助かった…。でも、僕には家族がいないから…。グレイスさんの妹、じゃなくて!弟になれたらいいのになぁ…。)
小さなお魚の男の子は、名残惜しそうに沖の方へ向かって泳いで行こうとしました。
その時!
空から一匹のカモメが小さなお魚の男の子を目がけて飛んできました!
(うわぁっ!?カモメさん、僕を食べる気だーーー!!)
カモメは、口ばしで海面をつっついて小さなお魚の子を食べようとしています!
「まぁ、大変!お魚さん、早く逃げてぇーっ!!」
(このままじゃ食べられちゃうーーーーーっ!!だれかタスケテー!!)
「こら!あっちへ行きなさい!」
エリックが海の中へ(水深は膝の高さくらい)入ると両手を振って、カモメを追い払ってくれました。
「ありがとう、エリック!お魚さんは大丈夫?」
グレイスもワンピースの長い裾をたくし上げるのも忘れて、いそいで海の中へ入って来ました。
「お魚さんなら大丈夫だよ。ほら!」
エリックは、小さなお魚の男の子を大きな両手ですくいあげてグレイスに見せました。
(ふわぁっ!エリックさんの手…おっきくて、温かくて…。なんか、すごく安心する…。)
「あぁ、良かったぁー!」
「グレイス、俺はこの子をもっと沖の方まで送っていってあげるから砂浜で待ってなさい。」
「私も一緒に行くわ!この子のご家族にも会ってみたいもの!」
「ダメだ!君は、泳げないんだろう?それに、それ以上服を濡らすとまずいんじゃないか?」
グレイスのワンピースの裾はびしょびしょでした。
「あーっ!どうしよう…。ばあやに叱られるぅ~!」
「グレイス、そういえば靴はどうしたの?」
「靴?えーっと…。あれ?どこで脱いだんだっけ…?」
「そのワンピースも靴もばあやのお手製だろ?服を濡らしただけでなく、靴までなくしたら…。」
「ばあや、きっと悲しむわっ! 大変、なんとしても探し出さなくちゃ!」
グレイスは、靴を探し始めました。
「あははっ。この子を送り届けたら、俺も一緒に探してあげるよ。」