ここのつめ『斥力に満ちた私と君へ』
生まれたんだね。知らなかったよ。ごらん、あの空、月、星、宇宙。闇。すべてはきっと、君の物なんだから、何も怖がることはないんだよ。
そして、君はきっともうすぐその目を開けて、この広い世界の中にただ二本の足だけで立つことになるだろう。美しい世界だ。君だけの世界なんだからね。
私はね、君と出会うために生まれてきたようなものなんだよ。だから、もう、本当に、もう、すべてに満足してしまったんだ。ありがとう、生まれてくれて。
嬉しかったよ。でも、もう行かなくちゃならないんだ。ごめんね。もう少し長く君と一緒に居たかったよ。けれど、これは定め。私がこの世界にもう居られないということは、神様が決めた定めなんだ。悲しいけれど、神様に逆らうことはできないんだよ。
さよなら、愛しい君よ。この言葉が君に届くことは絶対にないんだろう。だからせめて、今、私は君の耳に言葉を流し込んで身体の中まで染みこませてしまいたいと思う。そして、ある時ふと誰のかしれない言葉が君の中で再生されるんだ。君を愛する誰かの言葉が。
なんてね。そんなことを望むのは贅沢だ。この言葉はすべで私の自己満足。独り言、願いのようなものなんだ。
ああ、もう……。さよなら、さよなら、さよなら、私はもう潤んだ世界以外に何も見ることができないんだ。さよなら、君へ。ありがとう、生まれてきてくれて。
そして、ごめんね。