やっつめ 『滅亡した世界において』
世界の滅亡は、紛れもなくその瞬間に訪れていた。
まるで夢から覚めたような感覚。私は独り、赤い空と黄色い海に挟まれた所に身体を横たえていた。
崩壊。私以外のすべてが死に絶えた世界。なぜ私だけが生きているのか解らない。
私はある瞬間に、意を決して立ち上がった。ずっと横になり続けて現実逃避を続けていたかったのだけれど、そうは行かないようだった。空腹という、最低にリアルで面白くない苦しさが私を襲ってきたのである。
食べる物には困らなかった。しばらく行くと、街の残骸のような場所があって、そこにはコンビニの残骸のような建物があった。かすれて字が読めなくなった商品。私は、適当に目星をつけて袋を破った。案の定、ポテトチップスだった。私は崩壊前からポテトチップスが好きだったので、やりい、と思った。
その後、適当に街中を歩いていると、鴉が捨てられているゴミ袋から中身を引きずり出して夢中で食べているのが見えた。世界が滅亡していると思ったのは、私の、人類の、驕りだった。滅亡したのは人類だけだったのだ。
私以外の、人類。
だからといって、私には特に問題となることはない。大事なのは、この世界にただ私だけの人間が生きているということだけだった。不思議だった。私とは、何なのか。
何日も、何週間も、もしかしたら何ヶ月も何年も経った。赤い空と黄色い海の風景は変わらなかった。最初はおなかが減る回数でどれぐらい時が経ったかを計ろうとした。けど、途中で面倒くさくなってやめた。
この世界では、何もすることがなかった。だから、自殺も考えた。ただ食べて歩くの繰り返しをずっと続けるのに気が重くなったから……。でもやっぱり死ぬのは怖いのでやめた。だって怖いもん。
ある日、まだ使えそうなバイクが駐車場に停まっているのを見つけた。なんと、鍵穴に鍵が刺さっていた。私は免許を持っていないけれど、ちょっと練習すれば乗れるようになるだろう。私は喜び勇んで鍵を回した。
その瞬間、バイクは爆発した。
私は凄まじい爆風を受けて壁に叩きつけられた。頭を強く打った。視界がちかちか鋭い光に覆われる。痛い。痛いどころじゃなくて、痛すぎる。腹も痛い。手を当ててみると、どろりとした血の中に変な物体が混じっていた内蔵だ。
急激に意識が薄れていく。なぜ爆発したのか。燃料が劣化していたのか。解らない。
解らないことばかりだ。なぜ世界が滅びたのか。なぜ私が生きているのか。
なぜ、こんな、下らないことで最後の生き残りが死に至るのか。
解らない。そして、悟った。
面倒くさくなったんだな。この世界の神は。きっと、私に何かさせようとして、面倒くさくなって、殺すことにしたのだ。間違いない。私がそう思うのだから間違いない。
今度は、もう少し良い世界に私を生まれさせてくれよ。
そう思いながら、私は安らかに目を閉じた。