ハトラレ そして
今回はちょっとだけ重い話です。
そして少し長いです!
昼も夜もきらびやかなネオンが輝く快楽の都市ニヨーク。
その都市の公園の片隅で1人の男が鳩に餌をやっている。
彼の名は鼻くそボンバー田中、鼻くそを爆発させる事が出来る世界でただ1人の人間。
田中は影のヒーローとして都市に蔓延る悪と日々戦っていた、そして今日も自身に課せられた使命を全うしていた。
「あれが鼻くそボンバー田中っぽ。」
電気を操る銀鳩のクル坊が公園の木にとまり田中を観察している。
「鳩に餌をやっている今がチャンスっぽ!雷を落として黒焦げにしてやるっぽ!」
白く美しい羽から不気味なスパーク音が発する。
「消え……いやあれは⁉︎ 」
クル坊は豆鉄砲を喰らった程の衝撃を受けた、なんとクル坊の彼女である鳩美が田中から餌を貰っていたのである、しかもその顔はクル坊に一度も見せた事のない女の顔であった。
「鳩美ィィー!」
叫びながら飛び立つクル坊、そのクル坊に気付き鳩美は驚いた。
「クル坊君、何で⁉︎」
「それはこっちのセリフだ! 何でこの男と一緒にいるんだ! 」
田中は突然現れた銀鳩に驚きその場を去った。
「あっ待ってよー」
「待つのはお前だ鳩美! 何であの男と一緒にいるんだ!」
鳩美はぽっと舌打ちをした。
「私があの人の事を好きだからに決まっているじゃない。」
クル坊の心にヒビが入る。
「嘘だろ……そうだ嘘に決まっている。」
クル坊は嘴をパクパク動かしそう言った。
「鳩美、お前は何かされたんだろ? そうに決まっている。お前は自分の事を私じゃなくて僕って呼んでたじゃないか。それに前はそんなふしだらな匂いを放っていなかった。あの男に絶対何かされたはずだ! そうだと言ってくれ……鳩美……」
クル坊はその場にへたり込む。
クル坊は幼鳥期の頃から一緒にいる彼女を信じていた。
だが現実はどこまでも残酷である。
「違うわ、私はあの人の事が純粋に好きなの。」
薄氷に入ったヒビはだんだんとそのヒビを大きくし最後は粉々してしまう。クル坊の心はその薄氷と同じだった。
「私はあの人が好きなの。僕から私に変えたのはあの人が女らしい人を好きだったから。最初はあの人の大きくて少し湿り気のある固いパンが好きだったわ。でも今ではあの人無しじゃ生きられないのぉ……あの人の全てが好きなの。」
「ポッーーーーーーーーー!」
クル坊は叫び声を上げた。
どうする事も出来ない怒り、背中に氷柱を詰め込まれたような焦燥感、心臓を握り潰される様な悲しみ、そして僅かに感じる蜜柑の様に甘い背徳感、そんなドス黒い感情がクル坊を支配する。
「じゃあねクル坊君。」
鳩美は飛んだ、その場に鼻をつく様な獣の香りを残して。
「ポッ……ポッ…」
クル坊の世界は歪む。
夕暮れの公園に一匹の銀鳩が倒れている、その体は夕陽によってキラキラと輝いていた。
「ママこっち来てよ! 大変だよ! 鳥さんが倒れてるよ! 」
「あらあらそれは大変ね。家で看病しましょうね。」
銀鳩は小さな女の子とその母親の家に連れて行かれた。
数日後
「ママ、鳩さんご飯を食べてくれないよ。」
「もしかしてこの食べ物嫌いなのかしら。」
銀鳩は何もしなかった、鳴かず飛ばず食べず、それはまるで死を待っているかの様だ。
「鳩さんご飯食べて! 」
女の子が銀鳩の嘴に餌を近づける、だが銀鳩は反応しない。
「鳩さん鳩さん、 嫌な事があったの? 」
銀鳩の目が微かに動く。
「嫌な事があったんだね。ならおまじないかけてあげる。」
女の子の小さな手が銀鳩の頭に優しく触れる。
「これは嫌な事が無くなるおまじない。この前変なおじさんが私に近付いて凄く嫌だったんだけど、後でママがこのおまじないをしてくれたら全然嫌じゃなくなったんだ。これで鳩さんの嫌な事が無くなると良いんだけど。」
その時銀鳩の目から涙がポロポロと流れ落ちた。
「ごめん! 鳩さん痛かったの? 」
女の子は慌てて手を離す。
「もっと……」
「えっ? 」
「もっと撫でてっぽ……」
銀鳩は人の言葉で確かにそう言った。
さらに数日後
「お世話になったっぽ! 」
銀鳩は白く立派な羽を伸ばしそう言った。銀鳩の体は若い力に満ち溢れ毛の一本一本が輝きを放っている。
「鳩さん元気でね。」
「またいらっしゃいね。」
銀鳩はクルックと鳴き飛び立つ、その姿は死を乗り越え新たな姿に生まれ変わった不死鳥の様だった。
読んでいただきありがとうございます!