第2章 奈菜と出会ったコンビニ(その57)
「ええっ!・・・・・それでいて、僕に奈菜ちゃんと付き合えと?」
哲司は、喉の奥につかえていた大きな疑問を吐き出した。
「う〜ん、結論から言ってしまうとそうなりますか。」
マスターは少し首を傾げたものの、素直にそう答える。
「それって、・・・・つまりは・・・・僕にどうしろと?」
哲司は、頭の中では想像できるものがあるのだけれど、まさか、というそれを否定する強い思いがある。
「ですからね、巽さんが奈菜とお付合いを頂いた上で、この子なら奥さんにしてもいいよって思っていただけたとしたら、是非、本家を継いでいただきたいと。」
マスターはまどろっこしい言い方をした。
だが、言っている内容はストレートである。
「つまりは養子に入れと。」
哲司はその部分に妙に引っかかりを感じる。
マスターは、今度は一言も発することなく、大きく首を縦に振って哲司の言葉を肯定する。
「う〜ん・・・・・・・。そういうことなんですか・・・・。」
哲司は、ようやく今回の摩訶不思議な提案の本筋が見えてきたような気がしていた。
「もちろん、何度も言いますが、今すぐにそれを決めて欲しいとか、付き合うのはそれが前提だなどとは申しません。
あくまでも、巽さんがご自由な感覚で奈菜とお付合いを頂いて、先ほども申しましたように、嫁にしてもいい、とお思いになられたら、その時には、是非ともその本家の件をお考え頂きたいと言うことなのです。」
マスターはその点を念入りに繰り返す。
「でも、僕は、そのお酒のことなどまったくの素人ですし、やれる自信はありませんよ。それは無茶苦茶な話です。」
哲司は本音でそう言う。
それが顔色にも出たのだと感じる。
「お酒は飲まれるほうですか?」
いきなりマスターは話の矛先を変えてくる。
「いいえ、好きでもないですし。」
哲司は邪魔臭そうに答えた。
そんなことは、この際、関係ないだろうとの思いがある。
「それなら、資格は十分にあります。
酒造りは、その酒が好きな人には向かないものなのです。
ちなみに、従兄弟も私も、殆ど下戸。つまり、お酒は飲めない人間なのです。」
「でも、それとこれとは別でしょう。
だからと言って、僕がお酒造りに向いているとは限りませんからね。」
「それはそうですが・・・・。」
それでも、マスターは、こうした酒造りの話が出ることに対して、嬉しそうな顔を見せた。
(つづく)