第9章 あっと言う間のバケーション(その146)
「う、う~ん・・・。」
哲司は素直に肯定できない。
ドラえもんと両親。それがどうにも結びつかないのだ。
漫画「ドラえもん」には、のび太という男の子が登場する。
勉強は出来ないし、スポーツも駄目。
おまけに、努力することが何よりも嫌い。
そのくせ、欲求だけは人一倍という設定だ。
第三者的に考えれば、明らかに「駄目な子」というイメージだ。
それでも、その駄目な子が、ドラえもんという未来から来たロボットに助けられて、いろんなことにチャレンジをしていくという話だ。
見ている子は、その駄目なのび太に自分を重ねているのかもしれない。
この漫画のヒーローは、当然のことながら「ドラえもん」である。
それでも、誰も、自分がドラえもんになりたいとは思わない。
ここが他のヒーロー漫画とは決定的に違うところだ。
ドラえもんが、必ずしも、カッコいいとは言えないからだろう。
言わばずんぐりむっくりで、頭が特に良いとか、超能力を持っているとかではないからかもしれない。
哲司は、そのドラえもんの顔に、父や母を当て嵌めることが出来ない。
「その漫画じゃあ、ドラえもんがポケットからいろんな機械を出してくるんだろ?」
祖父は、まるでその漫画を見たことがあるような言い方をしてくる。
「う、うん、そ、そうだけど・・・。」
「漫画じゃあ、それを機械のように描いているんだが、本当は、それはいろんな知恵なんだ。」
「ち、知恵?」
「ああ・・・、言い方を変えると、困ったときにはどうすれば良いのか、あるいは、困ったときにはどう考えれば良いのかってことだな。
それを、ああして、未来の機械のように描いて教えてるんだ。」
「・・・・・・。」
「第一、考えてもみな? あれだけのいろんな機械を取り出せるのに、世の中全部にその機械を配ったりはしてないだろ?
その男の子のためだけに出してくるんだろ?」
「う、うん・・・。そ、それは、そうだけど・・・。」
「あれが事実だったら、ドラえもんは英雄だ。ノーベル賞を幾つ貰っても足らないぐらいだ。」
「そ、そうだね・・・。」
「でも、彼は、そうはしない。その男の子のためにだけ、いろんな機械を出してくるんだ。
そう考えれば、今の哲司にとってのドラえもんは、お父さんとお母さんであるに違いないだろ?」
「うっ・・・、う~ん・・・。」
「ま、そのうちに、そのことがよく分かるようになるだろう。
その時まで、爺ちゃんが今言ったことを哲司が忘れてなければ・・・だが・・・。」
祖父は、そう言ってにっこりと笑った。
(つづく)