第9章 あっと言う間のバケーション(その145)
「う、うん・・・。」
哲司はそのことには頷ける。
哲司の家とは違って、祖父の家は外と繋がっているような気がするからだ。
「でも、これで、哲司の宿題、ひとつは片付いたじゃないか?」
祖父は、少し考えるようにして言ってくる。
「んん? この笛ってこと?」
「ああ・・・、それも、まさに哲司が作った工作だろ?
こんなちゃちな物って思ってるのかもしれないが、そうしたひとつひとつの積み重ねがあってこそ、ちゃんとした音階が鳴る竹笛が作れるようになるんだ。
そのことを忘れちゃあ行けない。
だからこそ、本格的な竹笛を作り始める前に、こうした単音しか出ない竹笛を哲司に作ってもらったんだ。」
「う、う~ん・・・。」
「何でもそうなんだ。基本の部分を無視したり軽視したりすれば、結果として目標としていたところには辿り着けないんだ。
野球でもサッカーでもそうだろ?
キャッチボールやランニングといった基本的なことをやらないで、一流の選手にはなれやしないんだ。
いや、一流の選手になればこそ、そうした基本的な練習には決して手を抜かないものなんだ。
王や長島だって、日に何百回もの素振りをやっていたそうだ。
野球は野球場でやるものだが、そこで一流の成績を残そうとすれば、人の数倍、そうした基本的な練習をやる必要があるんだろうな。」
「・・・・・・。」
「哲司の好きな漫画に“ドラえもん”ってのがいるんだろ?
なんか困ったことがあると、ポケットからいろんな機械を出してきて助けてくれるらしいな。」
「う、うん・・・。」
哲司は、祖父がドラえもんを知っていることに驚く。
「でもな、それはあくまでも漫画だ。現実ではありえないことだ。」
「う、うん・・・。それは、分かってるけど・・・。」
「それでもだ、“ドラえもんが僕の傍にもいたら良いのになぁ”とは思うだろ?」
「う・・・、うん・・・。」
「爺ちゃんは、何も漫画が悪いとは言わない。でもな、今の漫画は、あまりにも非現実的過ぎるって思う。」
「ヒゲンジツ的?」
「ああ・・・、あまりに、現実とは違ったそれこそ“夢の世界”がすぐにでも手に入るような錯覚を招いてる。
現実には、幾ら困ってもそのドラえもんのような人物は出てこないんだ。
もし、それに近い人がいるとすれば、それこそがお父さんやお母さんなんだ。」
「ええっ! お父さんやお母さんがドラえもん?」
「そうなんだぞ。そうは思わんか?」
祖父は、そこで苦笑する。
(つづく)