第9章 あっと言う間のバケーション(その142)
「う、うん・・・、何?」
哲司はそう受ける。
そして、手にしていた竹笛を胡坐をかいた膝の上に下ろす。
そう、祖父の話を真正面から聞こうとしたのだ。
それだけの迫力が祖父にあったからだ。
「竹にも個性がある。それは、何度か言ったわな。」
祖父はその話から始めてくる。
「う、うん・・・。」
哲司もそう応じる。
事実、今朝から見たり触ったりした竹は、種類は同じだと思えるのに、いろんなものがあった。
細いのや太いの。それにまっすぐなものもあれば、少し曲がったものもあった。
その形ばかりではない。色も濃い緑色をしたものもあれば、やや色が薄いものもあった。
「今、使った竹もそうだな。哲司にどっちが良いと選んでもらおうと思ったんだが、哲司はどちらとも決めかねていたわな?」
「う、うん・・・。それは、どっちが良いのか分からなかったし・・・。」
「そ、そうなんだ。」
「ん?」
「どっちの竹が、これから作ろうとした竹笛に合うのかってのは、正直言って、この爺ちゃんにも分からなかったんだ。」
「う、うっそう!」
「嘘じゃない。これは本当の話だ。」
「で、でも・・・、爺ちゃん、こっちの竹が良いだろうって・・・。」
「ああ・・・、確かにそうは言った。だが、それは、良い竹笛になるかどうかではなくって、哲司が加工するのには、そっちのほうがやりやすいだろうと思っただけだ。」
「・・・・・・。」
「つまりはだ、どっちの竹が良い竹笛になって、より綺麗な音が鳴るかは作ってみないと分からないってことだ。」
「じゃ、じゃあ、こっちの竹のほうが駄目だったってこと?」
哲司はやや不満に思う。
竹によって鳴る音が違うんだから、こうして綺麗に鳴らないのは僕の所為じゃあないんじゃないかと思ったのだ。
「い、いや、その逆だ。」
祖父は、大きく首を横に振って言ってくる。
「んん? 逆って?」
「哲司の竹のほうが良い音が鳴るってことだ。」
「う、うっそう!」
哲司は、また同じ言い方をする。
だったら、どうしてもっと綺麗な音がしないんだと思う。
「いや、それも嘘じゃあない。」
「でもでも・・・。」
哲司はどうしても納得が行かない。
(つづく)