第9章 あっと言う間のバケーション(その141)
「う、うん・・・、分かった。」
哲司はそう答えるほかはない。
それでも、やる気は沸いてくるから不思議だ。
ついさっきは、「これで休もう」と思っていたのに、今、そうして祖父が褒めてくれたことと、それに伴なって、一言二言の会話があったからなのだろう。
先ほど感じていた息苦しさもどこへやら。何ともゲンキンなものである。
で、先ほどの感覚を思い出すようにして、また最初からやり直す。
「ぴぃ~~~~~~・・・」と竹が鳴る。
で、祖父の顔を見る。そう、反応を見たのだ。
だが、祖父の表情は動かない。いや、それどころか、眉間に皺が寄ったようにも思える。
仕方が無いから、哲司はまた同じことを繰り返す。
「ぴぃ~~~~~~・・・」と竹が鳴る。
かなり澄んだ音だ。最初に感じた濁りはもうなくなっていた。
それでも、祖父は動かない。
で、また次を・・・と、哲司が息を継いだときだった。
「急がないことだ・・・。」
祖父がポツンと言ってくる。
「んん? もっと、ゆっくりってこと?」
哲司が吹くのを止めて訊く。
「いや、そうじゃあないんだが・・・。何事も、結果を早急に求めても駄目だってことだ。」
祖父は、相変わらず目を閉じた状態で口だけを開いてくる。
「勉強にしろ、仕事にしろ、遊びにしろ・・・。竹笛を上手く吹くってこともだ。」
「・・・・・・。」
哲司には、今、どうしてそんな話をされるのかが分からない。
「何でもそうだろ? 1回や2回やっただけで、そんなに上手く行くとこばかりじゃあない。」
「う、うん・・・、そ、それはそうだけど・・・。」
「だから、焦っても駄目だ。何度もやれば良いってものでもない。
駄目なやり方であれば、何十、何百とやっても上手く行く筈がない。」
「んん? だ、だったら・・・。」
哲司としては、祖父が「何度も練習をしないといけない」と言ったからやってるんだとの思いがある。
「上手く行かなかったときの方が大切なんだ。」
「んんんん? ど、どうして?」
哲司は、ますます納得出来なくなる。
「良いか、哲司、よく聞くんだ。」
祖父は、そこまで言って、ようやく閉じていた目をかっと見開く。
そして、改めて哲司の方にその顔を向けてくる。
(つづく)