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第2章 奈菜と出会ったコンビニ(その53)

「はい、例の火事があった翌年でした。

出火原因は漏電でしたが、その火事で娘を亡くしてから体調を崩しましてね。

心労が重なったのだろうと医者には言われました。


娘が、店も随分と古くなったから立て替えたらと言うのを、代々受け継いで来た店でしたから、家内が反対していたのですよ。

建て替えなどはしないと。


そうしたら、たまたま娘親子が泊まりに来ていた夜に漏電があった。

娘の言うとおりに改築していたら・・・と考えたようでしてね。」

マスターは、当時を振り返って、苦しそうな顔を見せた。


「何も、お母さんの責任ではないのでしょうに・・・。」

哲司も、母親の心情は理解できるものの、何もそこまで思い込まなくとも、という気持である。



「まあ、そんなこんなで、私も家内が亡くなった後、店を畳んだんです。

火災保険がありましたから、建て替えて店を継続することも考えたのですが、酒屋家業自体がもう衰退の傾向でしたからね。

ご先祖様には申し訳がないと思いはしましたけれど、私ひとりでは切り盛りできませんし、頼りにしていた息子はあのとおり結婚にも失敗していましたから、とても後継者にとは思えなかったのです。


そんな折に、コンビニのフランチャイズをやらないかとの話がありまして。

酒類の販売権がありましたから、そこに目を付けられていたのでしょうね。


それで、ご覧のようなことに。」

マスターは、改めて向いのコンビニに視線を送った。



「いろいろと大変だったんですねぇ。」

哲司は、もうそれだけしか言えなかった。


「それだけにね、私は、孫娘である奈菜には、何としてでも幸せになって欲しいんです。

そりゃあ、娘の取った行動にもいろいろと問題はあったのだろうと思います。

ですが、生まれてきた子供には、その経緯なんてのは何の責任もありません。

娘が“この命”と思って産み育ててきた孫です。

娘にしてやれなかったことを、代わりに孫の奈菜にしてやりたい。

そう思っているんです。」

マスターは、そう言って珈琲カップに残った最後の一口を飲んだ。



「ですからね・・・・・・。

奈菜が産みたいと言うのであれば、本当は思い通りにさせてやりたいんです。

でも、それは、結果としてあの子が苦しむことになる。

それは明らかですよね。

今時、高校生が子供を産んでひとりで育てていけるなんてことは考えられませんから。

そうでしょう? そう思われるでしょう?」

マスターは、目の前らいる哲司に同意を求めてくる。



(つづく)




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