第9章 あっと言う間のバケーション(その138)
「うん、うん、うん・・・。」
哲司は何度も頷く。顔が火照ったように熱いことに気が付く。
「良かったなぁ~・・・。哲司がちゃんと作ったからだぞ。だから、笛も鳴ってくれたんだ。」
祖父がようやく褒めてくれる。
「う、うん。で、でも・・・。」
「ん? どうした?」
「爺ちゃんの笛みたいに綺麗な音じゃあないし・・・。」
哲司の耳には、先ほどのやや濁った音が残っていた。
「それは、笛の所為じゃあない。」
祖父が首を横に振ってくる。
「んんん? じゃあ?」
「哲司の吹き方がまだ下手くそだっただけだ・・・。」
「ええっ! ぼ、僕の所為?」
「ああ・・・、そうだ。嘘だと思うなら、哲司の笛、爺ちゃんに貸してみな?」
祖父がそう言って手を出してくる。
「・・・・・・。」
哲司は黙ったままで自分が作った竹笛を差し出す。
祖父が吹いても、やはり濁った音になるのではないかと思うからだ。
祖父は涼しい顔で哲司が作った笛を見つめていたかと思うと、その指先をちょこっとだけ竹の中へと入れる。
「ん? どうかした?」
気になった哲司が訊く。
「いや、何でもない。良いか・・・、吹いてみるぞ。」
「う、うん。」
「ぴぃ~、びぃ~、ぴぃ~~~・・・。」
祖父は、意識してだろう。3回も鳴らした。
しかも、とても同じ笛だとは思えないほどに綺麗な音でだ。
「・・・・・・。」
哲司は唾を飲み込む。「どうして?」という言葉も一緒に飲み込んでいる。
「な、笛はちゃんと作れてる。だから、綺麗な音で鳴ったんだ。」
「で、でも・・・。」
哲司は納得できない。
「学校で使ってるプラスチックの笛は機械が作ってる。
だから、どこからどのように吹いても鳴るように出来てる。
だけど、この竹笛は哲司の手作りだ。
つまりは、それなりの繊細さを持ってるんだ。」
「センサイ?」
「ああ、それだけ、個性があるってことだ。この笛だけが持っている特長ってのがあるんだな。
だから、その特徴と言うか、その個性に合った吹き方をしてやることが大切なんだな。」
祖父は、哲司の手に竹笛を戻し来てそう言った。
(つづく)