第9章 あっと言う間のバケーション(その137)
「あ、当ったり前だ、笛なんだからな。鳴るのが当然なんだ。」
祖父は、ほっとしたような顔でそう言ってくる。
鳴って当たり前だとは言うものの、やはり実際にそうして音が出たことで安堵したのだろう。
「す、すっご~いっ! ・・・。」
哲司は、目をまん丸にしてそう言う。
そう、1発で音が出たからだ。
「哲司もやってみな!」
祖父がご機嫌な声で言ってくる。
「う、うん・・・。こ、こう向けだよね?」
哲司は口に咥える竹の向きを確認する。
「ああ・・・、そうだ。少し深い目に入れて、で、強い目に吹くんだ。」
「・・・・・・・・・。」
哲司は既に竹を咥えていたから、黙ったままでただ大きく頷いてみせる。
(ふぅ~・・・、鳴るのかしら?)
哲司はそう思った。
祖父の真似をするようにして、同じように作った筈ではある。
それでも、だからと言って、祖父の笛と同じように、自分の竹が音を出すとは思えないのだ。
「ふぅー」と吹いてみる。
「・・・・・・。」
だが、哲司のその息は、まっすぐに竹の先から出て行くだけになる。
そう、鳴らなかったのだ。
「ん? どうした? 鳴らんか?」
祖父は、相変わらず柔らかな顔をしている。
「もっと強く吹くんだ。もう一度、やってみな。」
祖父は、そう激励してくる。
「う、うん・・・。」
哲司は、今度は思い切って吹くことにする。
先ほどは、「鳴るのだろうか」という怖さもあってか、やや遠慮した吹き方だった。
「ふ~ぅぅぅ~・・・。」
哲司は思いっきり空気を吸い込む。それで一気に勝負に出るつもりだった。
で、その吸い込んだ空気を一気に口の中へと押し出す。
「ビビ~ッッッ!」
咥えた竹が哲司の唇を震わせる。
「うわっ! な、鳴った、鳴ったよ!」
哲司の声が裏返っていた。
「ほ~らな、ちゃんと鳴ったろ?」
祖父は、まるで自分の事のように喜んだ顔をしてくれている。
(つづく)