第9章 あっと言う間のバケーション(その136)
「へ、へぇ~・・・、そ、そこに入れるんだ・・・。」
哲司は何とも変梃りんな気持になる。
「竹笛」という以上、その素材が竹であることは納得ができるのだが、まさか、その一部に竹の葉っぱが使われるとは考えもしなかったからだ。
もっと難しい作りになっているように思えた。
「やってみな。」
祖父がそう言ってくる。
哲司の気持が分かるのか、今度は笑顔でだ。
「う、うん・・・。ええっと・・・、こ、ここだよね。」
哲司は竹と竹の葉っぱを両手に持って、そしてそれを近づけていく。
「ゆっくりとな。葉っぱを歪めるなよ。」
そう言う祖父の声も、先ほどと比べると如何にものんびりとしている。
やはり、刃物を使わないで済むからだろう。
「は、入ったよ。これで良いの?」
哲司は葉っぱを差し込んだ竹を祖父の方に突き出して訊く。
「おお、それで良い。」
「こ、これでお終い?」
哲司が確認する。
先ほど、祖父が「これで仕上げだ」と言っていたからだ。
それでも、その実感はまったくない。
これで竹笛が出来上がったとはとても思えなかった。
「ああ・・・、出来上がった。」
「う~・・・。」
哲司は、改めて手の中にある竹を見つめる。
これで音が出るなんて・・・と思う。
「吹いてみるか。」
祖父が何やら意味ありげに笑いながら言う。
「ど、どうするの?」
「吹いてみるか」と言われても、哲司にはそのやり方が分からない。
「こうするんだ、よく聞いてろよ。」
そう言ったかと思うと、祖父は自分の竹を口へと運ぶ。
そして、まるで何かを咥えるように口を開けて、そこに竹を入れていく。
「んんん? そ、そんなに入れるの?」
じっと見ていた哲司が心配になって訊く。
祖父が竹の半分ぐらいを口の中へと入れてしまったからだ。
「ピィ~・・・」という少し高い音がした。
哲司の質問に、祖父がその音で答えたようだった。
「ああっっっ! な、鳴ったぁ~・・・。」
哲司が驚きの声をあげる。
(つづく)