第9章 あっと言う間のバケーション(その135)
「よしっ! まずは、そのナイフを元あった場所に戻すんだ。」
祖父は、哲司が竹からナイフを抜き出したのを見て、間髪入れずにそう言ってくる。
やはり、哲司に怪我をさせたくはないのだろう。
竹への切り込みの云々ではなく、まずはそのナイフの扱いに対する指示を優先した。
「う、うん・・・、ここにだね。」
哲司もその方がありがたかった。
で、祖父の指示に従うようにして、手にしていた切り出しナイフを元の位置へと置く。
「よし! じゃあ、竹を見せてみろ。」
祖父がそう言って手を伸ばしてくる。
「う、うん・・・。」
哲司は足元にあった竹を取って祖父に手渡す。
自分で確かめるだけの余裕は無かった。
「おおっ! こ、これで良い・・・。上手いぞ。」
「えへっ!」
哲司の口元が少しだけ緩む。
「さて、じゃあ、次はだな・・・。」
祖父はまた傍らにあった木箱を開けながら言う。
(ううっっっ! ま、まだあるのか・・・。)
哲司は正直休憩がしたかった。
もちろん、そんなことが言えるとは思っていなかったのだが・・・。
「いよいよ仕上げだからな。」
祖父は、何やら濃い緑色をした葉っぱのようなものを取り出してきて言う。
「ええっっっ! し、仕上げ? それって、もう終わりってこと?」
哲司は驚いた。
そんなに簡単に竹笛が作れるとも思っていない。
だから、自分の耳を疑ったのだ。
「ああ、これが最後の作業だ。これで仕上がる。」
「・・・・・・。」
改めてそう言われても、まだ実感が沸かない哲司である。
竹を糸鋸で斜めに切って、そして、今、その竹に切込みを入れただけだ。
これで終わりだと言われても、とても信じられないのだ。
こんなので笛になる筈はない。
そう思った。
「ほら、これを使え。」
「ん? これって?」
「見て分からんか? 竹の葉っぱだ。」
「あああ・・・、そ、そうなんだ・・・。で、でも・・・。」
哲司は、手渡されたものが竹の葉っぱを切ったものであることは確認できた。
それでもだ。その葉っぱをどうするのかがまったく予想できないのだ。
「この葉っぱをな、さっきの切り込みのところへ、こう入れるんだ。」
祖父は、自分の竹にその葉っぱを差し込むようにして言う。
今度は、哲司が見やすいように、目の前にもって来てやってくれている。
(つづく)