第9章 あっと言う間のバケーション(その132)
「これと同じものが哲司のところにも置いてあるだろ?」
祖父が手にした道具を見せるようにして言ってくる。
「う~んと・・・、ああ、こ、これだね?」
哲司はそう言って並べてあった道具のひとつを指差す。
先ほど、祖父から「触っても良いと言うまでは手を触れるな」と厳命されていたからだ。
「ああ、それだ。それを切り出しナイフと言う。」
「よく切れるの?」
「ああ、良く切れるぞ。爺ちゃんがちゃんと手入れしてるからな。
で、その横に、金槌があるだろ?」
「う、うん・・・、これだね?」
哲司は同じようにして指を差す。
「ああ・・・、それだ。で、一番右手に糸鋸があるだろ?」
「う、うん・・・。」
「そのみっつを使って、今から竹笛のひとつである笹笛を作るからな。」
祖父はそう言って、大き目の箱を開けて、中から長さが違う2本の竹を取り出してくる。
「えっ! ぼ、僕も?」
哲司は、内心「どうしよう?」と思う。
「もちろんだ。哲司が作れるようになるのが目的なんだからな。」
「んん?」
哲司は、祖父が言わんとしていることがもうひとつ分からない。
「哲司はどっちの竹が良い?」
祖父が訊いてくる。
「ど、どっちが良いって言われても・・・。」
哲司の本音だ。そんなこと、訊かれても判断なんか出来ない。
「じゃあ、こっちにしろ。このほうが、加工しやすいだろう。大きいからな。」
そう言って、祖父は長い方の竹を哲司に渡してくれる。
長い方と言っても、その長さは10センチちょっとぐらいだ。
哲司がイメージする竹笛に比べれば、如何にも短い。
「こ、これで?」
哲司は期待と不安が入り混じった顔で言う。
「ああ、爺ちゃんはこっちの竹で作るからな。」
祖父は、さらに短い竹を見せるようにして言う。
「まずはだ、糸鋸を使う。良いか、今から爺ちゃんがやって見せるから、よ~く見てるんだぞ。」
そう言ったかと思うと、祖父は片膝を立てる。
そして、その短い竹を足の下に置くようにして、その先を囲炉裏の方へ突き出すようにする。
(つづく)