第9章 あっと言う間のバケーション(その131)
「いや、作るってことだけに限って言えば、そんなに難しいことじゃあない。」
祖父は、哲司が抱いた不安を感じ取ったのだろう。
しっかりとした口調でそう言ってくる。
「ほ、ほんと?」
哲司も祖父の顔をじっと見て確認する。
「ああ・・・、嘘は言わない。
ただな、何度も言ったように、ちゃんとした音階が出せるかどうかだ。
その点は、少し難しいのかも知れん。」
「うっ、う~ん・・・。」
哲司は、その中間はないのかと思う。
作るのは難しくない。
ちゃんとした音階が出せるようにするのは難しい。
祖父はそう言っているのだ。
つまりは、簡単と難しいの両方を言っている。
子供の哲司にしたら、「一体どっちなの?」と言いたくなるのだ。
「その音階のところは、爺ちゃんが微調整してやるからな。」
「ん? 手伝ってくれるってこと?」
哲司は祈るような気持で言う。
「い、いや、手伝いはしないさ。でも、助けてはやれる。」
「んんん???」
哲司は、祖父の言葉の意味が分からない。
「さてとだ。今から準備運動だ。」
祖父は、その場で座りなおす。そう、一度立ち上がってから、もう一度座ったのだ。
「ん? 準備運動?」
哲司が首を傾げる。
「ああ・・・、竹細工の基本的な作業を哲司に教えてやる。」
「えっ! い、今から?」
「そうだ。哲司、そこで胡坐を掻け。」
「ん? アグラって?」
「な、何だ、胡坐を知らんのか? こうして座ることだ。」
「ああ・・・、それだったら、出来るよ。」
哲司もそこで座りなおす。
「これで良い?」
「ああ、ま、それで良い。」
「うふっ!」
哲司が笑う。
「ん? どうかしたか?」
「ううん、家だと、こうして座るとお行儀が悪いって叱られるから・・・。」
「ああ・・・、そうか、なるほど・・・。でもな、ここだと、その座り方が一番なんだ。
それでな・・・。」
祖父は、そう言って、並べてある道具のひとつを手に取った。
(つづく)