第9章 あっと言う間のバケーション(その129)
「う、うん・・・。」
哲司もそう認めざるを得ない。
「そう思うのは、それだけ哲司が成長したってことだ。」
祖父は、「成長」という言葉に力を入れて言う。
「大きくなってるってこと?」
哲司は、「大きくなる=成長」という意識があった。
子供もそうだし、学校で育てた朝顔もそうだ。
「ん? う~ん・・・、それもあるかも知れんが、身体だけじゃあない。
成長するってのは、その内面も含めてのことだ。」
「ナイメンって?」
「つまりは、賢くなるってことも含めてと言うことだ。
身体だけで言うのであれば、人間も犬も牛も、大人になれば、それ以上は身体が大きくなることはないわな?」
「う、う~ん・・・、そ、それは、そうだけど・・・。」
「じゃあ、人間は大人になれば、もう成長しないってことになる。
でも、そんな事はないんだ。」
「んん?」
「身体が大きくなることはしなくなっても、頭の中、つまりは脳味噌はまだまだ大きくなるんだからな。」
「ええっ! 脳味噌だけが大きくなるの?」
哲司は、「だったら、頭でっかちになるんじゃないの?」と思ってしまう。
そう、まるで漫画の世界のようにだ。
「あっははは・・・。」
祖父は大きな声で笑った。哲司の反応がそれだけ面白かったらしい。
「なるほどなぁ~・・・。」
祖父は、それでも何とか哲司の言葉を受け止めようとしてくれる。
「・・・・・・。」
哲司は黙って祖父の次の言葉を待つ。
いつもの祖父であれば、哲司の疑問を解き明かしてくれるような話を聞かせてくれるからだ。
「脳味噌が大きくなるってのは、表面積が大きくなるってことなんだ。」
「面積?」
哲司にも、その言葉は分かった。
「ああ、そうだ。脳味噌の表面には沢山の皺があってな。」
「し、しわって、この皺?」
哲司は、自分の額を指し示して言う。
子供なのに、哲司の額にはどうしてかそこそこ目立つ皺があったのだ。
「そ、そうだな。その皺と同じようなものだ。その皺が、何万とあるそうだ。」
「えっ! そ、そんなに?」
「ああ・・・、もちろん、爺ちゃんも見たことはないんだが・・・。
脳は、成長するたびにその皺が増えるんだそうだ。つまり、賢くなるたびに、その皺を増やしていくんだな。」
「へ、へぇ~・・・。」
哲司は、自分の額の皺に触れながら感心した思いで聞いている。
(つづく)