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第9章 あっと言う間のバケーション(その128)

「ああ・・・、そうなんだぞ。」

祖父は、哲司がそう反応するであろうことが事前に分っていたかのように、間髪入れずにそう言ってくる。


「う、う~ん・・・。」

哲司は下唇を噛むしかなかった。


「簡単なことは、それこそ誰にでも出来るだろ?

例えばだな、今の哲司だったら、ひらがなは何も見ないで書けるよな?」

「う、うん・・・。」

「でも、そんなもの、書けて当たり前だって思うだろ?」

「う、うん、そう思う。」


「でも、幼稚園に入る前の子が、ひらがなを全部書けたらどうだ?」

「そ、それは・・・、凄いって思う・・・。」

哲司は、幼稚園に入る前には書けていなかったような気がする。


「だろ? しかもだ、誰かに教えられて覚えたんじゃなくって、小学校のお姉ちゃんが一生懸命にノートに書いているのを見て、僕もしたいって言って、で、同じノートを買ってもらって、お姉ちゃんの教科書を見てその全部を書くようになったんだとさ。」

「そ、そんな凄い子がいるの?」

哲司は、それは祖父の作り話ではないかと思った。


「ああ、その男の子が、哲司のお父さんだ。」

「ええっっっ!!! ・・・・・・。」

哲司は絶叫するように言った後、そのまま固まってしまったかのように動けないでいた。


「哲司のお父さんが子供の頃、心臓の難病に罹っていたってのは知ってるんだろ?」

「う、うん・・・。聞いたことがある。」

「お父さんは、ずっと入院していたから、幼稚園にも学校にも通えていなかったんだ。

でもな、何にでも興味を持つ利発な子だったらしい。」

「リハツって?」

「う~ん・・・、聞き訳がよく、それでいて賢いってことだ。」

「そ、そうだったんだ・・・。」


「お父さんは、心臓に病気があったから、普通の子のようにグランドを走ったり、プールで泳いだり、ボールを投げたりは出来なかったんだ。

したくっても、許してもらえなかったんだな。」

「・・・・・・。」

「それでも、決して駄々を捏ねたりはしなかったそうだ。

その分、自分で出来ることを懸命に考えてたんだろうな。

で、そのひとつが、そのひらがなだったらしい。

鉛筆を持ってノートに書くだけだ。これだと、お医者さんからも駄目だとは言われない。

そう思ったって、お父さん言ってた。」

「そ、そうだったんだ・・・。」

哲司は、殆ど独学で希望する高校の入学試験に合格をしたという話と重ね合わせるようにして、改めて父親を凄いと思う。



「だからな、難しいって思うことに出会ったときの気持の持ちようだってことだ。

何でも最初は難しく感じるものだ。

哲司も、今はひらがなもスラスラ書けるんだろうが、習い始めた頃はどう思った?」

「う、う~ん・・・、難しいって思った。」

「だろ? でも、今じゃあ、そんな簡単なことって思うんだろ?」

祖父は、まるで詰将棋でもするかのように、ひとつひとつ言葉を打ってくる。



(つづく)




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