第9章 あっと言う間のバケーション(その127)
「難しくなかった?」
哲司が訊く。
例え、竹笛の作り方を書いた本があったとしても、それを読んだだけでそうしたものが作れるとは思わなかったからだ。
哲司には、プラモデルで苦労した記憶があった。
そう、その頃学校で持て囃されたロボットのプラモデルだった。
「買って欲しい」と母親に強請った。
もちろん、「駄目よ」と素気無い返事だった。
ただ、母親は一言付け加えてきた。「お父さんに訊きなさい」とだ。
で、哲司は父親に頼み込む。懇願したのだ。
それだけ欲しかった。友達の多くが持っていた。
「自分で作れるのか?」
父親が念を押してくる。
「う、うん。自分で作るから・・・。」
哲司はそう答えた。そうでなければ、買ってもらえないと知っていたからだ。
「分かった。」
珍しく、父親はそう即決してくれた。
だが、このことが哲司を苦しめた。
買ってもらって、喜び勇んで持って帰ったものの、その中に入っていた作り方を書いた説明書が何とも難解だった。
(友達も作れたんだし・・・。)
哲司にはそうした思いがあった。
出来上がったプラモデルを見せびらかす友達に訊いていたのだ。
「それ、自分で作ったの?」とだ。
そうしたら、誰もが口々に「あったり前だろ!」と威張ったのだ。
哲司は、それを真実だと受け止めていた。
本当は、父親や兄弟の上の子に手伝ってもらったのに・・・だ。
だから、自分にも出来る筈と思っていたのだ。
だが、現実はそう上手くは行かなかった。
小学校に入ったばかりの哲司に、高学年向きのプラモデルが作れる筈はなかった。
さりとて、今更、父親や母親に「手伝ってくれ」とは言えない。
で、未だに、どこかの引き出しに箱ごと放り込んだままである。
「そうだな。難しかったな。」
祖父は、哲司の問いに、そう答えて来る。
もちろん、祖父は、哲司のプラモデルのことは知らないだろう。
「でもな・・・。」
祖父はそう言葉を繋いでくる。
「難しいからこそ、やってみたくなるもんなんだ。」
「えっ! そ、そうなの?」
哲司が、祖父の言葉を素直に聞き入れられなかったのは言うまでもない。
(つづく)