第9章 あっと言う間のバケーション(その124)
「自分にしか作れないもの?」
哲司が確認する。
「ああ・・・、そういうことだな。」
祖父はまずはそう肯定する。そして、言葉を繋いでくる。
「で、爺ちゃん、考えたんだ。」
「・・・・・・。」
「こうした竹細工は、確かに、この地方じゃあ、農家の夜鍋仕事として長い間続けられてきた。」
「ヨナベって?」
哲司は、迷ったものの、その意味が分からなかったから問い返す。
「ん? 夜鍋か・・・。
そ、そうだなぁ~、簡単に言えば、夜に家の中でする仕事ってことだ。
農家ってのは、基本的には田んぼや畑に出て作業するのが仕事だ。
だから、夜になればできなくなるわな、真っ暗だしな。」
「う、うん・・・。」
「で、夜に出来る仕事として、こうした竹細工なんかが考えられたんだな。
こうして作ったものを売って、少しでもお金を稼ぎたいって事情もあったからな。」
「そ、そうなんだ・・・。」
「だから、爺ちゃんもそうなんだが、こうした竹細工を作るのが本業だとは思ってなかったんだ、その佐古田爺さんもな・・・。」
「ほ、ホンギョウって?」
「つまりは、本来の仕事じゃあないってことだ。
本来の仕事は農業だからな。米を作ったり、野菜を作ったりする・・・。」
「うんうん、そ、そうだね・・・。」
「その米や野菜を作って売るだけで十分な生活費が稼げるようであれば、こうした竹細工なんかはしなかっただろう。
でも、農業ってのは、天候に左右される。
雨が降らなかったり、逆に雨が多すぎても、米も野菜もその収穫量が減ってしまう。
つまりは、収入も減ることになる。」
「・・・・・・。」
「爺ちゃんのところは、哲司のお母さんを含めて子供が3人。
娘ばっかりだったから、いずれは皆をお嫁に出してやらんといけない。
それを考えると、ちょっとでもお金は稼ぎたかったからな。
だから、夜の空いた時間に、こうして竹細工を作ることにしたんだ。
今風に言えば、アルバイトだな。」
「ア、アルバイト?」
哲司は、竹細工とアルバイトが結びつかなかった。
「ああ、そうだ。アルバイトだったんだ・・・。
でもな、このアルバイトのお陰で、子供たちにも贅沢はさせられないまでも、何とか不自由な思いだけはさせずに来れたと思ってるんだ。」
「・・・・・・。」
哲司は黙って聞くだけになる。
「でも、その佐古田爺さんもそうだったんだが、子供が独立してしまうと、そうしたアルバイトも必要がなくなる筈だったんだが・・・。」
「ん?」
哲司は、祖父が何を言おうとしているのかが分からなかった。
(つづく)