第9章 あっと言う間のバケーション(その123)
「電灯?」
哲司は、その言葉に当てはまる字をそう感じた。
いや、それしか知らなかったということもある。
「この電灯じゃあないぞ・・・。」
さすがに祖父である。
梁から吊り下げられた明かりの方を指差して言ってくる。
「ん?」
「伝統工芸とか、伝統文化とか言うだろ?」
「う、う~ん・・・。」
哲司は、もうひとつピンと来ない。
「ずっと昔から受け継がれてきた文化とか習慣とか技術とか、そうしたもののことだ。」
「ああ・・・、そ、そういうこと?」
哲司も何となくだが理解する。
そう言えば、学校で聞いたことがあるようにも思えてくる。
「だから、この煙管を貰ったときは嬉しかったなあ~。」
「ほ、欲しかったの?」
「い、いや、この煙管その物が欲しかったわけじゃあないんだ。
その佐古田爺さんに、竹細工を作る人間のひとりとして認めてもらえたようでな。
そのことが嬉しかったんだ。」
「・・・・・・。」
「佐古田爺さんってのは、その当時でもう80歳を超えていたんだ。」
「わっ! す、凄い!」
哲司は、その年齢に驚く。
今の祖父よりもさらに爺さんだ。
「それでも、竹細工、とりわけこうした煙管を作らせたら、この地方じゃあ1番の腕だった。何でも、県の知事さんから表彰されたこともあるぐらいだったしな。
それだけ、良いものが作れる人だったってことだ。」
「へ、へぇ~・・・、そ、そんなに凄い人だったの?」
「ああ・・・、でもな、その作り方には秘密があったらしくってな。」
「ひ、秘密?」
「そうだ。佐古田爺さんが編み出した作り方だったんだろうな。
他の人がいくら同じようなものを作ろうと努力しても、とても爺さんと同じレベルのものは作れなかったんだ。」
「その作り方を内緒にしてたってこと?」
「そうだ。教えては呉れなかったな。」
「ふ~ん・・・、そうだったんだ・・・。」
哲司は、何とケチ臭い人だと思った。
「だからこそ、なんだ。」
祖父は、一呼吸空けるようにして言ってくる。
「ん? な、何が?」
「その佐古田爺さんが作ったこの煙管を大切に思うのは。
同じ竹細工をやる人間として、爺ちゃんの励みになってるんだからな。」
「ど、どうして?」
「う~ん・・・、どう言えば良いのか・・・。ま、一言で言えば、“自分にしか作れないものを目指せ”って言われてるように思えてな。」
祖父は、煙管が入った箱を撫でるようにして言う。
(つづく)