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第9章 あっと言う間のバケーション(その122)

「だからな・・・、今も言ったろ?」

祖父は、首を傾げるようにして言ってくる。


「んん?」

哲司は言われる意味が分からない。


「その物に対する気持が無いから、どこにやったか、どこにしまったのか、それを忘れてしまうんだ。」

「で、でも・・・、結局は、あったんでしょう?」

「物理的にはな・・・。」

「ん? ブツリテキって?」


「ああ、確かに、爺ちゃんが作ってやった竹人形はあったし、出てきた。

でもな、だからと言って、それで良かったと言うことじゃあない。」

「・・・・・・。」

「そうだろ? 爺ちゃんは、お母さんがその竹人形で楽しく遊べるようにっていう思いを込めて作ったんだ。

だから、特別な細工までして、世界にたったひとつしかないものを作ったんだ。」

「う、うん・・・、それは、分かるけど・・・。」


「そうして作った竹人形だ。それだけ爺ちゃんの思いが篭った竹人形なんだ。

それを、どこに入れたか、どこにしまったかを忘れるってのは、そうした気持がお母さんには伝わらなかったってことだ。

そのことが残念でな・・・。」

「う、う~ん・・・。」


「その竹人形は、飾るために作ったもんじゃあない。

あくまでも、お母さんがそれを可愛いと思って抱いて遊んでくれるようにと作ったんだ。

だから、そうして抱いて遊んでいる間にどこかが割れたり壊れたりしたのであれば、すぐにでも同じものを作り直してやっただろう。

だが、そうではなかった。

他人に勝手に遊ばれないようにと、つまりは、自分が独占するためにと、そうして鞄の中に入れたんだろう。

で、その挙句に、そのしまった場所まで忘れてしまった・・・。」

「・・・・・・。」


「でも、お母さんは、そうした爺ちゃんの気持は分かっていたんだろう。

だから、また作ってほしいとは言って来なかった。

その点は、偉いと思ったな。」

「そ、そうなんだ・・・。」


「お母さんは、竹人形がなくなったのは、自分の不注意が原因だってことは分かっていた。

だから、爺ちゃんも、その竹人形を失くしたってことについては、お母さんを叱らなかったんだ。」

「ふ、ふ~ん・・・、そ、そうだったんだ・・・。」


「物は、いつかは、そうして失われていくものなんだ。

壊れるものもあるだろうし、使うことで磨り減っていくものもある。

でもな、作った人の気持ってのは、例えそのものが無くなってしまってもずっと生き続けるものなんだ。」

「作った人の気持?」

「ああ・・・、そうだ。だから、伝統というものが作られていくんだな。」

祖父は、使い終わった煙管を大事そうに箱に戻しながら言ってくる。



(つづく)






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