第9章 あっと言う間のバケーション(その120)
「へぇ~・・・、そ、そうなんだ・・・。」
哲司は、その後に続く言葉を口にしなかった。
言って良いのかどうかを迷ったからでもある。
「ん? な、何だ?」
さすがは祖父である。哲司が何かを飲み込んだのが分かったらしい。
「ううん・・・、べ、別に・・・。」
「良いから、言ってみな。」
祖父は意識してか笑顔で言ってくる。
「う、う~ん・・・、よく失くさなかったよね・・・。」
「ああ・・・、貰った煙管をか?」
「う、うん。僕だったら、とっくにどっかに行っちゃってる。
だ、だって・・・、貰ってから15年も置いてあったんでしょう?」
哲司は、その点が不思議だったのだ。
「あああ・・・、なるほどなぁ~・・・。」
祖父は哲司の言葉に驚いたような顔を見せたものの、それはそれで納得できると思ったようだった。
何度も頷いてくる。
「どうしたら、そんな長い間、失くさないでいられるの?」
哲司は、自分に置き換えて訊いている。
「う~ん、大切なものとして考えたからなんだろうな。」
「そう思ったら失くさない?」
「だと思うけれどなぁ~、それと・・・。」
「それと?」
「やっぱり、整理整頓なんだろうな。」
「や、やっぱり?」
哲司は、きっとその言葉が出てくるだろうという予感はあった。
学校でも家でも、それこそ毎日のように言われるからだ。
「大切なものは、入れておくところをちゃんと決めておくことだろうな。
そうすれば、どこに行ったか分からなくなるってことは起こらない。」
「う~ん・・・。」
「違うか?」
「そ、そうだとは思うけれど・・・。」
「思うけれど、それが出来ないってか?」
「う、うん・・・。」
「哲司がそう思うのに出来ないってことは、そんなに大切とは思ってないってことなんだろう。」
「そ、そうなのかなぁ~・・・。」
哲司には自信はない。
「そんな事はない」と言いたい気持もあるのだが、さりとて、祖父が言うように「大切なものだからここに・・・」と決めているものでもない。
兎に角、「取り敢えずは・・・」と手近な引き出しか棚の上に置く。
そのうちに、どこに置いたかさえも忘れてしまう。
その繰り返しだったように思う。
「まあ、哲司ぐらいの年齢だと、そうなるのが普通なのかも知れんな。
哲司のお母さんだってそうだったしな・・・。」
祖父はそう言って苦笑した。
(つづく)