第9章 あっと言う間のバケーション(その119)
「よ~し! これで気分がすっきりした。」
そう言ったかと思うと、祖父は手にしていた煙管を囲炉裏の縁に軽く叩きつけるようにする。
カツン!という痛そうな音がした。
「んんん?」
哲司は、祖父が何をしたのか分からなかった。いや、どうしてそんなことをしたのかが分からないと言うべきかもしれない。
「ん? ああ・・・、今のか?」
祖父がそう問い返してくる。
哲司の表情から、その内面を読み取ったのだろう。
「う、うん・・・。」
哲司は目を丸くしたままで小さく頷く。
「ここに詰まっていた煙草の残りを捨てたんだ。
使う都度、こうしてそれを取り除いておかないと、すぐに詰まってしまうからなんだ。」
「詰まると、どうなるの?」
「次の煙草が吸えなくなる。」
「ええっっ! そ、そうなの?」
「ああ、この煙管ってのは、この部分は細い竹で、中は筒のようになっているからな。」
祖父は、哲司の方に煙管を指し示してそう言ってくる。
「ん? そ、それって、竹で出来てるの? だったら、燃えちゃわない?」
哲司の感覚には、「竹は木と同じで燃えるもの」という常識がある。
「そ、そうだな。これ全部が竹で出来てるとしたら、燃えちゃうだろうな。
でもな、この部分とこの部分、つまり両端は金属で出来てるんだ。」
「ああっっ、そ、そうなんだ・・・。」
哲司は、手は出せないものの、祖父が間近で見せてくれた煙管をじっと凝視する。
「じゃあ、これも爺ちゃんが作ったの?」
哲司が訊く。本体部分が竹で出来ていると聞いたからだ。
「う~ん・・・、残念ながら、これは爺ちゃんが作ったもんじゃないんだ。」
「じゃあ、買ったの?」
「いや、貰ったんだ。」
「だ、誰に?」
「う~ん、名前を言っても哲司は知らんだろうが・・・。
もう死んでしまったんだが、この村にいた佐古田という爺さんがいてな。
今の爺ちゃんと同じように、夜になったら、こうして竹細工を作ってたんだ。
その佐古田爺さんが呉れたんだ。
もう、20年も前のことなんだが・・・。」
「へ、へぇ~、そ、そんな昔に?」
哲司にすれば、20年前と言えば、それはもう「昔」と表現するしかない。
自分が生まれるずっと以前だからだ。
「あははは・・・、そ、そうだな、随分と昔のことだな・・・。
でもな、爺ちゃんがこれを使い始めたのはここ5年ほどなんだ。
それまでは、ずっと紙巻煙草だったしな。」
祖父は、改めて煙管を撫でるようにしながら言ってくる。
(つづく)