第2章 奈菜と出会ったコンビニ(その51)
「ですが、私どもとしても、親の立場として黙って見過ごしていたのでも決してありません。
娘がその相手のことを詳しくは言わないものですから、それだったら、一旦は子供はできていなかったことにして、改めて結婚を前提にしたお付合いをしてはどうかと。
仲人もしかるべき人に頼んで、とまで言ったのですがねぇ。」
「・・・・聞き入れられなかった?」
「はい。そのとおりなのです。
とにかく、今、お腹にいる子供を産みたい。
そのために、結婚をしようとしているように思いました。」
「娘さんはそのように思われたとして、相手の男性、つまり奈菜ちゃんのお父さんはそのことをどのように思われていたんですか?」
「それが、よくは分りませんでした。
と、言うよりも、先ほども言いましたが、娘がその相手の名前すらも言わないものですから、なかなか特定できなかったんです。
したがって、その意向を聞こうにも、うかつには動けなかったんです。」
「でも、指導係りの人であるということはわかっていたのでしょう?」
「いえ、それも娘から聞き出したことではなかったのです。」
「じゃあ、どうしてお母さんは支店長にそのように・・・・?」
「それは、実務研修が始まってから、度々遅く帰宅する事がありまして。
家内が娘に注意をしたのです。
いくら社会人となったからと言っても、まだ未成年なのだから、もう少し早く帰ってきなさいと。
するとですね、娘が言うには、教育係りの人が遅くまでかかって教えてくれているのに、私帰ります、とは言えるものではない、と。
つまり、遊んで遅くなっているのではなくて、仕事を個人的に教えてもらっているのだから、心配しないで、と言ったのです。」
「それは事実だったのですか?」
「それは、今でもわかりません。
ですが、そうしたことを聞いていたために、妊娠したと聞いて、だったら相手はその教育係りの男なのだろう、と思っただけなのです。」
「だったら・・・・・・。
まったく別の男性だったという可能性もあるってことですか?」
「それはないと思います。
そうでなければ、いくら娘に迫られたとしても、結婚を了承したりはしないでしょうから。」
「なるほど。それも一理ですねぇ。」
聞き役に徹するつもりの哲司だったが、どうしてだか、その話に深く聞き入ってしまった。
それは、どうも奈菜の置かれている立場と共通するところがあるからだとは、後から気が付くことになる。
(つづく)