第9章 あっと言う間のバケーション(その116)
「だから、オーケストラってのは、そうしたいろんな特徴、いろんな個性をもった楽器が揃っているからこそ、あれだけの素敵な音楽を奏でられるんだ。
それは、哲司にも分かるよな?」
祖父はどうやら竹細工をする準備を整えられたらしく、手を止めてそう言ってくる。
そして、ようやく哲司の顔を見てくる。
「うんうん、それは分かるよ。」
哲司も、祖父の視線に答えるように、大きく頷くようにして言う。
「さ、これが哲司の道具だ。」
祖父は、そう言ったかと思うと、哲司の傍に1枚の布を引っ張り出すようにしてくる。
その布の上には、いろんな形をした小刀のようなものが並んでいた。
そう、哲司の感覚で言えば、彫刻刀のような感じだ。
「ああっ、まだ手を触れるなよ。使い方を教えるまでは、絶対に触っちゃあ駄目だ。」
「う、うん・・・、分かった。」
哲司も、一旦は出しかけた手を素直に引っ込める。
「小さいとは言っても、これは庖丁やナイフと同じ刃物だからな。
その使い方も知らずに触っていると、必ず怪我をする。
そうなっては困るだろ?」
「う、うん。」
「さっきのオーケストラの話なんだが・・・。」
祖父は、そう言って脇に置いてあった細長い木箱を開ける。
まだ何かの道具を出すのかと思っていたが、祖父が取り出したのは細長い棒のようなものだった。
「そ、それは?」
思わず哲司が訊く。初めて見るものだったからだ。
どうやら刃物ではないことだけが分かっただけである。
「おおっ! こ、これか? これは、煙管と言ってな、煙草を吸う道具だ。」
祖父は哲司に問われたことが意外だったらしく、少したじろいだような顔をした。
「ええっ! た、タバコ?」
哲司は驚いた。
それは、母親から「お爺ちゃんも昔はタバコ吸っていたんだけれど、身体のことを思って止めているのよ」と聞いていたからだ。
「お母さんには内緒だぞ。」
そう言う祖父の顔は赤くなっていた。
「う、うん・・・。分かった、言わない・・・。」
哲司はそう約束をする。祖父とこうして秘密を共有できることが嬉しくもあったからだ。
「毎晩、この時間、竹細工をする前に一服するんだ。」
「お、美味しいの?」
「う、う~ん・・・、そうなんだろうな。だから、吸ってるんだ。お医者さんからは止められてるんだが・・・。どうにも、この一服が無いと、精神が集中できないんだ。」
祖父は、そう言って、その煙管に何やら詰め始める。
(つづく)