第9章 あっと言う間のバケーション(その115)
「仲良くしろってこと?」
哲司は、祖父の手の動きを目で追いながら、そう訊く。
きっと、そう言われたのだろうと思ってのことだ。
「そりゃあな、全部の人と仲良くできればそれに越したことは無い。
それが理想だろう。
でも、現実の問題として、人間は神様じゃあない。
誰とでも同じように仲良くは出来んだろう?」
祖父は相変わらず竹細工をする準備なのだろう、いろんな道具を並べながら言ってくる。
「う、うん・・・、そ、そうだね・・・。」
哲司も、感覚としては祖父の意見に頷けるものがある。
「つまり、人間にはそれぞれ個性がある。価値観も違う。従って考え方も違うし、意見も違ってくる。
哲司の同じクラスの子でもそうじゃあないか?」
「うっ、う~ん・・・、そ、そうだね・・・。」
「好き嫌いもあるな?」
「う、うん。」
「だから、喧嘩することもあるだろ?」
「う、うん・・・。」
「そうしたことも楽器と同じなんだ。」
「ん?」
「楽器だって、いろんな楽器があるだろ?
ピアノ、バイオリン、トランペット、フルート・・・って・・・。」
「う、うん。」
「もちろん、その楽器だけでも音楽は鳴らせるが、たったひとつの楽器だけで人を感動させる良い音楽ってのは奏でられないんだな。
いろんな楽器が、それぞれ自分が出せる音を他の楽器と合わせることで、それが綺麗なハーモニーとなったときにだけ、聴く人を感動させられるんだ。」
「・・・・・・。」
「楽器には、打楽器、つまりはドラムやティンパニーのように叩くことで音が出るものがある。
それでも、そうした打楽器は、他の楽器に無い欠点もあるんだ。」
「ん? 欠点?」
「メロディーが鳴らせないってことだ。つまりは、それひとつでは音階が出せないってことだ。」
「あああ・・・、そ、そうだね・・・。」
哲司も太鼓を叩いたことがあったから、それは実感できる。
「でも、その反面で、そうした打楽器というものは、その音楽の全体に大きな影響を与える力を持っているんだ。」
「ん?」
「それがリズムを作るってことだ。」
「ああ・・・、なるほど・・・。」
「音階は出せない、つまりはメロディーを作ることは出来ないが、その代わりにリズムを作れるんだな。
言い換えれば、その音楽のリズムを作るために打楽器がどうしても必要なんだってことだ。」
「な、なるほど・・・。」
哲司は、感心したかのように祖父の話に聞き入ってしまう。
(つづく)