第9章 あっと言う間のバケーション(その114)
「哲司が学校に持って行って、他の子の笛と一緒に演奏できるものでなけりゃあ、それこそ役に立たんだろ?」
祖父は踏み込んだ言い方をしてくる。
「そ、そうなるのが一番良いんだけれど・・・。で、でも・・・。」
哲司としては、そこまでの高品質は求めていない。
工作の宿題として、兎も角はちゃんと音が出る竹笛が作りたいだけだ。
音楽の時間に使うつもりなど、毛頭無かった。
そんなことを求めれば、到底、自分の手には負えないことは目に見えていたからでもある。
「ほら、また、そんなことを言う。」
祖父は、哲司の本音を読んだかのように言ってくる。
「ん?」
「作る前から、とても出来そうに無いって思っただろ?」
「・・・・・・。」
「そこが哲司の駄目なところだ。
爺ちゃんは、誰にも教えてもらってないんだぞ。それでも、ここまで作れるようになってるんだ。
哲司には爺ちゃんが付いてるんだ、ちゃんと教える。
だから、哲司に出来ないことじゃあない。」
「う、う~ん・・・。」
そこまで言われても、「うん、分かった」とは言いきれない哲司である。
「良いか、今も言ったとおり、竹笛は見た目じゃあないんだ。
綺麗に作ることが大切なんじゃあない。ちゃんと笛として使えるかどうかなんだ。
つまりは、他の笛や他の楽器、例えばピアノやバイオリンなどといった楽器と綺麗な音が合わせられるかどうかなんだ。
それが楽器としての価値だ。
分かるだろ?」
「う、う~ん・・・。」
哲司は、言われることは分かるものの、そこまでのものが作れるとは思えないから、ついつい言葉を濁してしまう。
「人間と一緒なんだ。」
「ん? 人間と?」
「ああ、そうだ。人間も竹笛も、見た目だけじゃあ、その真の実力ってのは分からないってことだ。
竹笛は、適当に作っても、歌口、つまりは音を出す口の部分さえちゃんとしておれば、音は鳴る。」
「ええっ! そ、そうなの?」
「ああ・・・、音が鳴るように作るのはそんなに難しいことじゃあない。
ただな、今も言ったように、正確な音階が出せるように作り上げて行くのが難しいんだ。手間もかかるしな。それなりの努力が求められる。
だから、人間と同じだって言うんだ。」
「・・・・・・。」
そう言われても、哲司にはピンと来ない。
「人間も、飯さえ食べさせたら、身体はそこそこ大きくなっていく。
でもな、大人になるってのは、ただ単に身体が大きくなれば良いってことじゃあない。
音が出て、つまりは自分の意思を言葉に出せて、そして、周囲に居る人間とその音をちゃんと合わせていけるかどうか。つまりは、周囲と協調できるかどうか。
それが、ちゃんとした大人になるための条件だからな。」
祖父は、竹細工の準備をしながらそう言ってくる。
(つづく)