表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
922/958

第9章 あっと言う間のバケーション(その111)

「それを決めるのは哲司自身だから・・・。」

言外に、そう言ってくれたように思えた。


家では、いつも母親に指示されていた。いや、命令されていると言っても言い過ぎではない。

「起きなさい」「食べなさい」「風呂に入りなさい」「もう寝なさい」。

おまけに、「宿題はしたの?」「今日の復習はしたの?」「予習もするのよ」・・・とだ。

まるで、母親のために動いている、そんな感じさえ持っていたのだ。


それなのに、今、祖父は「いつ寝ても良いぞ」と言ってくれたのだ。

これは、指示でも命令でもない。明らかに、「哲司の好きにしろ」と言ってくれたも同然。

こんなことを言われたのは初めてのような気がする哲司である。



「さあ、これからが爺ちゃんの趣味の時間だ。」

祖父は、哲司と同じように囲炉裏端に腰を下ろしてきて言う。


「ン? 趣味の時間?」

「ああ・・・、今の爺ちゃんにとって、一日で一番幸せを感じる時間だ。」

「た、竹細工をすることが?」

哲司にはとてもそうは思えなかった。仕事のひとつなのではないかと・・・だ。


「う~ん・・・、竹細工か・・・。ま、それもあるかな?」

「んんん??」

哲司は、祖父の言い方がよく理解できなかった。


祖父は、風呂で、「風呂を上がったら竹細工をする」と言った。

哲司は、それを1日の仕事の一部だと理解をした。

そう、畑仕事や、食事の準備と同じでだ。

だからこそ、哲司も「テレビは見ないでおこう」と思ったのだ。


それなのに、祖父は「この時間が一番幸せだ」と言う。

おまけに、哲司が「竹細工をすることが楽しいのか?」と訊いたのに、「それもあるかな」と答えたのだ。

哲司の頭に「?」が浮かんでも不思議ではない。


「じゃ、じゃあ、何が楽しいの?」

哲司が再確認する。


「そ、そうだなぁ・・・。こうして、1日の終わりを噛み締めることが出来るってことかな?」

「1日の終わり?」

哲司は、そんなことがどうして楽しいのか理解できない。


「ああ、そうだ。今日も1日、何事も無く、平々凡々と暮らせたなぁ~って・・・。」

「そ、そんなことが、楽しいの?」

「う~ん、ま、楽しいと言うより、幸せだって思うんだな。そして、感謝する気持になれる。」

「か、感謝? だ、誰に感謝するの?」

「いろんなものにさ。お天道様を初めとする自然に、そして、今日出会えたいろんな人にもな。

だから、今日は、哲司にも感謝だ。」

「んんん? ど、どうして?」

「さて、どうしてなんだろうな?」

祖父は、にっこり笑ってそう言った。



(つづく)






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ