第9章 あっと言う間のバケーション(その110)
その夜。
哲司は、囲炉裏端にちょこんと座っていた。
「テレビを見ても良いぞ」と祖父に言われたのだが、哲司は「爺ちゃんは?」と問い返した。
祖父がどうするつもりなのかを知りたかったからだ。
一緒に入った風呂の中でのことだった。
「そうだな、いつもと同じで、竹細工を作ろうと思ってる。」
祖父はそう答えてきた。
で、哲司もそれに付き合おうと思ったからだった。
晩御飯が終わって、後片付けをした。
祖父が使った鍋を洗っている間に、哲司はガスコンロを片付け、そしてテーブルを覆うように敷き詰めていた新聞紙を取りまとめる。
やはり、それなりに油が飛び散っていた。
祖父が言っていたとおりであるし、そのための新聞紙だったことを改めて実感する。
「これ捨てるの? 捨てないよね?」
哲司が問う。
家であれば、迷わずゴミ袋に入れていただろう。
だが、ここでは、どうにもそうではないように思えた。
祖父のことだから、こうした新聞でもまた何かに使うのかもしれないと思った。
「ああ、それな。よく気が付いたな。」
祖父は、哲司がそう訊いたことを褒めてくれる。
(や、やっぱり・・・。)
哲司は、自分の勘が当たったようで嬉しくなった。
「それな、重ねて良いから、竈の横に置いておいてくれ。後で、焚きつけに使うから・・・。」
「う、うん。分かった・・・。」
哲司は小走りで運んでいく。
その油が飛び散った新聞紙を炊きつけにして沸かした風呂に入ったのだ。
昔ながらの五右衛門風呂である。
「どうした? テレビ、見ないのか?」
祖父は、風呂あがりの冷たい麦茶を手にして言ってくる。
「う、うん・・・。面白いのやってないし・・・。」
「そ、そうか・・・。」
祖父はそう言っただけで、それ以上のことは触れてこなかった。
「眠たくは無いか?」
「う、うん、大丈夫だよ。まだ早いし・・・。」
「そ、そっか・・・。でもな、哲司、今日は良く働いたしな・・・。疲れているんじゃないかって思ってな。眠たくなったら、いつ寝ても良いんだぞ。」
「う、うん・・・。」
哲司は、そう言われて嬉しかった。
「早く寝なさい」ではなく、「いつ寝ても良いぞ」って言われたことがだ・・・。
(つづく)