第9章 あっと言う間のバケーション(その109)
「ああ・・・、学校の勉強だ。」
祖父は、止めを刺すように言ってくる。
「うっ、う~ん・・・。」
「確かに、勉強は面白いもんじゃないかもしれん。
でもな、何度か言ったように、今の哲司がしている勉強ってのは、大人になるためには絶対になくなてはならない知識ばかりなんだ。」
「・・・・・・。」
「今日、哲司には、井戸水を汲み上げてもらって、そしてその水で竹を洗ってもらった。」
「う、うん・・・。」
「あれも勉強のひとつなんだ。」
「ん? ど、どうして?」
哲司には、どうしてもあの作業が勉強と同じだとは思えなかった。
「だってな、あれは、竹笛を作るための準備作業だ。」
「ああ・・・、そ、それは、そうだけど・・・。」
「だろ? つまりは、宿題の工作を作るための作業なんだ。」
「・・・・・・。」
そう言われると反論できない哲司である。
「竹笛を作るためだってことが、哲司にあそこまで作業させたんだ。」
「ん?」
「つまりは、動機が明確だったから、それがあったから哲司も頑張れたんだろ?」
「ん? ドウキって?」
「そ、そうだな・・・。それをする最終的な目的ってことだな。」
「目的?」
「ああ、そうだろ? 竹笛を作るのには、当然にだがその材料となる竹が必要だわな?」
「う、うん・・・。」
「それが分かっていたから、ああして重たい目をしても、哲司は水を汲み上げたし、それで丁寧にあの竹を洗ったんだ。違うか?」
「うん、まあ、そうだけれど・・・。」
「それと同じでな。学校の勉強も、ちゃんとした大人になるためだってことが分かっておれば、哲司もちゃんとやれるってことだ。」
「う、う~ん・・・、分かってるつもりなんだけど・・・。」
「いや、分かっちゃあいない。だから、そうして勉強から逃げようとしてるんだ。」
「・・・・・・。」
「頭では分っていても・・・ってのは、本当には分っていないってことなんだ。
でもな、今日の哲司を見ていて、爺ちゃん、これからの哲司は大きく変われるって思えたんだ。」
「ええっ! ぼ、僕が変わる?」
「ああ・・・、きっと、勉強にももう少しは前向きになれるだろうって思うな。」
「ほ、ほんとに?」
「ああ・・・、ここで数日間暮らしていたら、きっと今までの哲司とは随分と違った哲司になるだろうって思う。」
「だ、だと、良いんだけれど・・・。」
哲司は、そう言われて嬉しいと思う反面で、「本当にそうなれるのだろうか」という不安も感じていた。
「明日には、他の宿題も届くだろうしな・・・。」
祖父は、そう言ってにやりと笑った。
(つづく)