第9章 あっと言う間のバケーション(その108)
「そ、そうだね・・・。この素揚げもそうだし・・・。」
哲司は、生まれて初めて自分でやったこの料理方法をそう表現する。
祖父の言うとおり、こうして自分でやって食べるのは、非常に楽しかったし、何よりも美味しく感じられた。
「味は人それぞれだ」と言われたが、それでも、やっぱり今日の素揚げは今までに食べたどんな天麩羅よりも美味しかった。
「昔から、“百聞は一見に如かず”と言ってな・・・。
百回聞くよりも、1回自分の眼で見たほうが確かな情報になるって言われたもんだ。」
「・・・・・・。」
「つまりは、聞いているだけじゃ何にも分からない。やはり、自分自身で確かめるのが一番だってことだ。
それを、哲司は、今日いくつもやったってことだ。
だから、頭も使ったし、で、お腹もすいたんだ。」
「い、いくつも?」
哲司は、そう言われるだけの自覚は無い。
「ああ、そうだ。初めてのことを沢山やったろ?」
「あああ・・・、そういうこと?」
「そうだ。でも、嫌だったか? どうして僕がこんなことをしなくっちゃいけないって思ったか?」
祖父は、哲司の顔を覗き込むようにして訊いてくる。
「ううん。そんなことは無いよ。どれも、やって良かったって思う・・・。」
哲司はそう即答する。事実、そう思っていた。
「辛くは無かった?」
「う、うん。
竹を洗ったのもそうだし、井戸水を運んだのもそうだよ。ちょっと重たかったけど・・・。
それに、お巡りさんの自転車にも乗せてもらったし・・・。
で、大きな牛も初めて見たし、丸子ちゃんって犬とも友達になれたし・・・。
で、この素揚げでしょう?
どれも、嫌だ何て思わなかったよ。楽しかったし、美味しかった・・・。」
「あははは・・・・、そ、そうか、そう思うか・・・。」
「う、うん。」
「だ、だったら、大丈夫だな。」
「ん? な、何が?」
哲司は、祖父が入れてくれたお茶を飲みながら訊く。
「哲司は、自分がその気にさえなれば、何にでも挑戦できる子だってことだ。」
「ん? ちょ、挑戦?」
哲司は、「挑戦」という言葉は知っていた。ゲームにも「挑戦者」って言葉が出てくるからだ。
ただ、ここでその言葉が出てくるとは思わなかった。
「ああ・・・、挑戦だ。今風に言えば、チャレンジって言うのかな?
まずは、“やってみよう”という気持が大切だからな。」
「う、う~ん・・・。」
「哲司が苦手だと言う勉強だってそうだ。最初から、“わぁ~、難しそう”って思ってないか?」
「ええっ! べ、勉強?」
哲司は、そこに話が及ぶとは思っていなかった。
(つづく)