第9章 あっと言う間のバケーション(その105)
「そ、そうだ!」
祖父が何かを思い出したように言う。
「ん?」
「哲司、冷蔵庫を開けてな、プチトマトを出して来い。」
「ん? プチトマト?」
「ああ・・・、今日、昼に食べたろ?」
「あっ、うん、そうだったね。」
「で、何かを思い出さんか?」
祖父は、自分の湯呑にもう一杯お茶を注ぎ入れながら言ってくる。
「あああ・・・。」
「思い出したか?」
「う、うん。どうして、冷蔵庫で冷やさないかって・・・。」
「おお、よく覚えていたな。賢い賢い。」
「そ、それを今食べるってこと?」
哲司は、その時の場面を思い出しながら確認する。
「そ、そうだ。出してきて、食べてみな。今晩、食べるって言ってたろ?」
「う、うん・・・。」
哲司は、席を立って冷蔵庫のところへと行く。
そして、中から器に入ったプチトマトを取り出してくる。
「う~ん・・・、よ~く冷えてる。」
哲司は、器を持った感触のままを言う。
「食べてみな?」
「う、うん・・・。」
哲司は持って来たプチトマトをそのまま口に入れる。
「うわっ! つ、冷たい・・・。」
「・・・・・・。」
祖父は何も言わない。
哲司は口の中でそのプチトマトを歯の上に乗せる。
これからがぶっと噛むつもりでだ。
で、歯で切り裂くようにして噛む。
「う、うわっ! ・・・・・・。」
哲司は、そう叫んだだけで、それに続く言葉が出せない。
「どうだ? 美味いか?」
祖父は、まるで哲司の味覚が伝わっているように訊いてくる。
「す、酸っぱい・・・。」
「ン? 甘くは無いのか? 昼に食べたとき、哲司、そう言ったろ?」
祖父が畳み掛けてくる。
「うっ、う~ん・・・。これ、同じトマトだよね?」
「ああ、あの時、哲司の目の前でそのひとつを入れただろ?」
「ど、どうして、こんなに酸っぱくなったの?」
「だから、言ったじゃないか。冷蔵庫に入れずに、ああして井戸水で冷やすのが一番なんだって・・・。」
祖父は、如何にも酸っぱくなるのが当然という顔をする。
(つづく)