第9章 あっと言う間のバケーション(その104)
「へぇ~・・・、そ、そうなんだ・・・。」
哲司は、感心したかのように言う。
だからと言って、いつもより沢山食べられた理由が納得できたわけではない。
ただ、こうして祖父の話を聞いていると、不思議とそれが真実のように思えてくるのだ。
そう、まるで催眠術にでも掛かったかのようにだ。
「ほい、お茶だ。哲司も飲んでおけ。」
最後のウインナーの蛸を哲司が食べ終えたのを見て、祖父が湯呑にお茶を入れてくれる。
「う、うん・・・。でも、どうして温かいお茶なの?」
哲司は、不思議に思って訊く。
今は真夏だ。
しかも、この家にはクーラーが無い。
だから、朝から飲んでいたのは、冷蔵庫に入った冷たい麦茶ばかりだった。
それなのに、祖父は温かいお茶を入れてくる。
「それは煎茶だ。」
祖父は単純にそれだけを言ってくる。
「ん? せん茶?」
「ああ、麦茶はその名のとおり麦から作るんだが、この煎茶ってのは茶葉から作るんだ。つまりは、普通の日本茶ってことだ。」
「どう違うの?」
哲司は両手で湯呑を口へと運びながら訊く。
「麦茶は、ひとつの効能として、身体を冷やす効果があるんだ。
だから、こうした夏場に飲まれるんだな。
その点、今飲んでいる煎茶は、1年中飲まれるごく普通のお茶だ。
ただな、麦茶には無いビタミンCが沢山入ってるんだ。」
「ビタミンCって・・・、あのレモンに沢山入ってる奴?」
「ああ、そうだそうだ。よく知ってるな。
素揚げは、天麩羅よりは少ないんだが、やっぱりどうしたって油を摂取することになる。
それはそれで重要なことなんだが、どうしてもコレステロールが多くなる。
で、そのコレステロールを消化させるのがビタミンCなんだ。
だから、油物を食べた後は、こうした煎茶を飲むと身体に良いんだな。」
「ああ・・・、そ、そうなんだ・・・。」
哲司は、難しいことは分からないが、少なくとも、油物を食べた後は日本茶を飲むのが良いらしいとだけは理解する。
「それに、後味がすっきりとするだろ?」
哲司がお茶を飲んだのを確かめてから、祖父がそう言ってくる。
「う、うん・・・、何となく・・・。」
「日本茶にはカテキンというものが大量に含まれててな、それが抗菌作用を果たすんだ。
昔は、こうしたお茶を薬代わりに飲んだと言われるぐらいだし・・・。」
「へ、へぇ~・・・、お薬の代り?」
「ああ・・・、それだけ、身体に良い飲み物だってことだ。」
「う、うん、分かった。飲んどく。」
哲司は、湯飲みの中のお茶を飲み干した。
(つづく)