第9章 あっと言う間のバケーション(その103)
「だからなんだぞ、学校でも、クラス替えをするだろ?
そして、学年が変わるたびに、担任の先生も変わったりするだろ?」
祖父は、そう付け加えてくる。
「う、うん・・・、それはそうだけど・・・。」
哲司は、それは事実として認めざるを得ない。
「それだって、新しい友達と出会えるようにだし、新しい先生と出会えるように考えられてるんだ。」
「そ、そうなの?」
哲司は、そうした理由があるとは考えたことがなかった。
「そうだ。だから、年々、友達も増えるし、先生との付き合いも増えていくんだ。それが子供の成長に不可欠だからだ。」
「フカケツって?」
「無くてはならないってことだ。」
「う、う~ん・・・、で、でも・・・、折角仲良くなった友達と離れ離れになっちゃうし・・・。」
「うん、それはそうだな。でも、それも大きくなっていくためには必要な経験なんだぞ。」
「ど、どうして?」
哲司は、そんなことが、つまりは仲良くなった友達と別れることが必要な経験だとは思えなかった。
「人間はひとりじゃあ生きて行けない。このことは言ったわな。」
「う、うん・・・。」
「でも、一生同じ人間とだけ付き合えるものでもない。そうだろ?」
「うっ、う~ん・・・、そ、そうだね・・・。」
「て、ことはだ、常に新しい人間とも出会って付き合うようになるんだな。
そして、それとともに、それまでの友達や仲間や先生たちとも別れて行くんだ。
それこそ、クラス替えなんかと同じでだ。」
「・・・・・・。」
「そうしたことが何度も何度も繰り返されるのが人間の一生ってものなんだ。分かるか?」
「う、うん・・・、なんとなく・・・。」
「そうした新たな人との出会いってのは、学校でしている勉強と同じでな、哲司に新しい知識をもたらしてくれるんだ。」
「んんん? 新しい知識?」
「ああ、そうだ。哲司が今までに知らなかったり関心が無かったりしたことを、その人達は経験しているんだ。
哲司と同じクラスの子でも、算数が得意な子、国語が得意な子、音楽が得意な子、そして、哲司のように運動が得意な子と、いろいろな子がいるだろ?」
「う、うん・・・。」
「それと同じで、人にはそれぞれの個性がある。自分が持っていないものを相手が持っているってことが大切なんだ。
そうした子や人と出会うことで、その人が持っている個性や知識ってのを少しでも分けてもらえるんだからな。」
「分けてもらう?」
「ああ、だから、新しい人との出会いは、頭を使うんだ。で、お腹が減る。」
祖父は、そう言って笑った。
(つづく)