第9章 あっと言う間のバケーション(その101)
「おおっっ、そ、そうだったなぁ~・・・。
でも、仮に残ったとしても、それは無駄にはしない。
明日のカレーに入れようと思ってたからな。」
祖父は哲司の言葉に驚きながらも、そう説明してくる。
「あああ、明日はカレーだったよね。」
哲司も思い出す。
今夜、カレーにするか素揚げにするかを悩んだのだった。
その結果、祖父の裁定で、今夜が素揚げ、明日の夜がカレーと決まったのだった。
「だからな、その逆だと、そうも行かないだろ?}
「な、なるほど・・・。爺ちゃん、凄いや・・・。」
哲司は、そこまで考えて素揚げとカレーの順番を決めていた祖父にただただ驚くばかりだ。
「なに、こうしたことは、毎日のように料理をしていると、自然と身に付いてくるもんだ。
哲司のお母さんだって、毎日のメニューを決めるのに、そうしたことも考えている筈だ。」
「そ、そうなの?」
「ああ・・・、間違いない。」
「・・・・・・。」
そう言われても、哲司は母親がそこまで考えてメニューを決めているとは思えなかった。
大抵の場合、「今日、これが安かったから」という理由が付けられていた。
「ま、これだけ綺麗に食べられるんだったら、どっちが先でも変わりはなかったかも知れんが・・・。」
祖父は綺麗さっぱりと空になった皿を見つめて言う。
「それにしても、よく食べたなぁ~。哲司、腹壊すなよ。」
「う、うん・・・、大丈夫だよ。」
哲司はまだ余裕があると思っていた。
「で、でも・・・。」
「ん? どうした?」
「家でも、こんなに食べたことは無いから・・・。」
「あははは・・・、そ、そうか。」
「う、うん。やっぱり、こうして自分で揚げるのが良いんだよね。
楽しいし、好きな順番で食べられるし・・・。」
哲司は本音で言う。
「それに、哲司、今日はよく身体を動かしたしな。それも大きな理由だろう。」
「う、うん・・・。でも、家でも、外で思いっきり遊んでいるし・・・。」
「う~ん・・・、それでも違うんだぞ。」
祖父は、どうしてか何かを言いたそうにした。
「な、何が?」
哲司は最後のウインナー蛸を口に入れて訊く。
「遊んで使う体力と、今日みたいに仕事をして使う体力は格段に違うものなんだ。」
「んん? どれぐらい?」
「そりゃあ、仕事をする方が体力を使うし、当然にお腹も減るんだ。」
「そ、そうなの?」
「ああ、だから、哲司、いつもよりたくさん食べられたんだ。」
祖父は両手を合わせて「ご馳走様でした」とやりながら答えて来る。
(つづく)