第9章 あっと言う間のバケーション(その99)
哲司は、別に、祖父にオベンチャラを言ったつもりは無い。
不思議なほど素直な気持だった。
「で、でも・・・、この素揚げって、とっても美味しいね。家でもやって欲しいな。」
祖父が話しかけてこないから、哲司はその話を持ち出した。
言わば、次のキッカケである。
「そ、そうか・・・、そんなに美味いか?」
祖父はこれまた嬉しそうにする。
「う、うん・・・。」
「家でも、天麩羅は食べてるんだろ? だったら、今度は素揚げにしてよって頼めば良い。
お母さんだって、それぐらいの融通は利かせてくれるだろう。
材料も殆ど同じでいけるからな。」
「うっ、う~ん・・・。」
そう言われても、哲司は「うん、そうだね」とは言えなかった。
「ん? どうかしたか?」
その気配を感じてか、祖父が手を止めて訊いてくる。
「天麩羅でもそうだけど・・・、こうして、テーブルのところではやらないし・・・。」
「ん? つ、つまりは、哲司、こうして自分でやりたいってことなのか?」
「う、うん・・・。だって、この方が美味しいんでしょう?」
哲司は、祖父が言っていた言葉を逆手に取る。
「あははは・・・、そ、それはそのとおりだな。じゃあ、そのことも言ってみれば良い。
爺ちゃんのところで、こうして自分で揚げて食べたからって・・・。」
「い、言っても良いの?」
「当たり前だ。お母さんだって、ここで、こうして食べたもんだ。
だから、哲司からそう言えば、きっと分かってくれるさ。」
「う、うん・・・、そうするよ。」
哲司は、本気でそうしようと思った。
「ただな、どうしてお母さんが家でこうしないかってことも考えてあげろよ。」
「ん? どうしてって・・・。」
「爺ちゃん、これをやる前に、哲司に頼んだことがあるよな?」
「ああ・・・、これの準備ってこと?」
「そうだ。油が飛んでも良いようにと、新聞紙を広げるように頼んだわな?」
「う、うん、そうだったね。」
「それにガスコンロの準備もしてもらったわな?」
「う、うん・・・。」
「つまりはだ、本当は、台所で揚げてしまう方が、何かと手間が掛からないんだな。
準備もそうだし、後片付けもだ。」
「あああ・・・、な、なるほど・・・。」
「爺ちゃんはこの食事の後はそんなに用事が無いから良いんだが、哲司のお母さんは夕食が終わってからもいろいろとしなくてはいけないことがたくさんあるんだな。
お風呂の準備もあるだろうし、哲司の翌日の準備もあるだろう?」
「・・・・・・。」
「だから、ちょっとでも手間を省きたいんだ。そのことは分かるよな?」
「う、うん・・・。」
哲司は、夕食後の母親の動きを思い出している。
そう言われれば、母親はじっとはしていない。
(つづく)