第2章 奈菜と出会ったコンビニ(その49)
哲司は言葉を挟まなかった。
マスターの娘、つまり奈菜の母親のことを話されているのだが、どうしても現在の奈菜の状況とダブっているように思えてならないからだ。
このお爺さん、一体何が言いたくて、こんな話をするのだろう?
哲司は、ずっと同じ思いに駆られている。
「このことに、一番悩んだのが、私の家内でした。
いくら夫婦で店を切り盛りしているからと言って、子供の、ましてや年頃の娘の変化を見逃してしまった、と思っていたようです。
それはお前だけの責任じゃない、私も同罪だと言ったのですが、年頃の娘が父親にそうした素振りは見せないもの、それを母親である自分が嗅ぎ取れなかったのがこの結果に繋がったのだと、自分を責めていたようです。
それでねぇ、私が止めるのも聞かず、相手の男、つまり奈菜の父親なんですが、そこへ直談判に行ったんですよ。」
「えっ・・・・、お母さんがですか?」
哲司の口から、思わぬ言葉が飛び出した。
黙っていようとしていたのに、思わず心の驚きが、そのまま口をついて出たのだ。
「そうなのです・・・・・・。それも、職場へ直接です。」
「ええっ!・・・・職場って、その娘さんがおられる銀行へ?」
「そうです。」
「相手も驚いたでしょうが、娘さんもビックリされたんではないですか?」
「はい、それはそうなんですが、家内は彼を呼び出す前に、支店長室に行ったらしいんです。」
「支店長室?」
「はい、その銀行は、当時、私どもの事業に相当な融資をしておりましてね、その支店長も私どもとは顔なじみだったんです。」
「それで?」
「はい、直接彼に会おうにも、顔も名前も分りませんでしたから・・・。」
「えっ?名前もご存知なかったんですか?」
「ええ、娘がどうしてもその名前は言わなかったもので・・・。でも、教育係りとして付いている人物であることだけは分っていましたから。」
「それで・・・・支店長室へ・・・。」
哲司は、ようやく母親の行動の筋書きが見えたような気がした。
「その支店長は、家内からの話を聞いて、青ざめたようです。
確かに従業員同士の恋愛の縺れだと言えないこともないのですが、そのひとりが大口の融資先の娘であるということが、支店長を震えさせたようです。」
「そりゃあ、そうしたことが表沙汰になれば、支店長の立場はないでしょうからね。」
「そこで、支店長は、まず娘を支店長室に呼んだのです。
母親が来ていることを伏せたままですが。」
「ああ、なるほど。」
哲司は、その光景がドラマのように目に浮かぶ。
(つづく)




