第9章 あっと言う間のバケーション(その95)
「う~ん・・・。」
哲司は、口の中からタマネギに刺さっていた爪楊枝を引っ張り出して言う。
祖父の言っていることは決して間違いじゃあないだろう。
そうは思うものの、実際の哲司の状況からすれば、やはり「怒られている」という感覚から抜け切れないからだ。
どう考えても、「怒る」と「叱る」が別物だとは理解できない。
「ま、まあ・・・、今の哲司にそれを分かれと言う方が間違っているのかも知れんな。」
祖父はそう言ってくる。
哲司が理解できなくっても、それは無理からぬ話だと思ってくれたらしい。
「いずれ、哲司にも、今、爺ちゃんが言ったことがちゃんと理解出来るようになる時が来る。いや、来てもらわないといけない。
それが大人になってからも分からないと、さっき言ったような、間違った大人になってしまうんだからな。」
「・・・・・・。」
「でもな、哲司に、今、どうしても分かっておいて欲しいことがあるんだ。」
「ん? な、何?」
哲司は、にんじんを口に入れながら訊く。
「それはな、“叱られている”ことに慣れないで欲しいってことだ。」
「んん? な、慣れる?」
「ああ・・・、哲司、お父さんやお母さんに叱られたとき、“ああ、また、何か言ってる”って思ってないか?」
「うっ、う~ん・・・。」
哲司の箸が止まる。
ズバリだったからだ。
「やっぱり、そう思ってたんだな?」
「う、う~ん・・・、べ、別に・・・、そうは思ってないけど・・・。」
哲司は、小さな反抗を試みる。
「そりゃあな、お父さんやお母さんが言っていること、すぐには従いたくないこともあるだろう。子供なんだしな。」
「う、うん・・・。」
「でもな、言われていることだけはちゃんと聞くようにしろ。
それが、子供として、お父さんやお母さん、つまりは親に対する最低限の礼儀だ。」
「レイギって?」
「う、う~ん・・・、つまりは、ルールってことだ。
で、すぐには従えないときは、ちゃんとその理由を自分の口で伝えることだ。
それをしないから、お父さんやお母さんを怒らせることになる。」
「・・・・・・。」
「例えばだ・・・。」
祖父は、もう少し話を具体的なものにしないと哲司が理解しないと思ったのか、そう付け加えてくる。
「ご飯の時間になったとする。哲司も呼ばれる。」
「う、うん・・・。」
哲司は、実際の場面を想像しながら聞いている。
(つづく)