第9章 あっと言う間のバケーション(その93)
「う、う~ん・・・、そ、そうなのかなぁ~・・・。」
そう言われても、哲司には実感が無い。
両親には、いつも怒られてばかりいる。そんな気持があったからだ。
「な、なんだ? そうじゃあないって、言いたそうだな・・・。」
祖父は、そうした哲司の気持が分かるらしい。
「いつも怒られてばかりだし・・・。」
哲司はその一言に気持を込める。
「怒られてるってか・・・。」
「う、うん・・・。」
「でも、実際は、怒られてるんじゃあなくって、叱られてるんだぞ。」
「ん? 同じことじゃないの?」
「い、いや、違う!」
「ど、どう違うの?」
「良いか、怒るってのは、言っている側、つまりはお父さんやお母さんが腹を立てているってことだ。」
「じゃ、じゃあ、叱るってのは?」
「言葉で教えているってことだ。つまりは、注意をしてるってことだな。」
「・・・・・・。」
「だから、怒ると叱るは別なんだ。」
「じゃ、じゃあ・・・。」
そこまで言ったものの、哲司はそこから先の言葉が見つけられなかった。
「哲司にしたら、同じように思うのかもしれんが・・・。
お父さんやお母さんを怒らせるのは、きっと哲司が悪いんだと思うな。
何度も言われたのに、それを聞かなかったり・・・。
そうじゃあないのか?」
「う、う~ん・・・。そ、そうかもしれないけど・・・。」
「親は、子供を叱るもんなんだ。そうして、厳しく育てていく。」
「じ、爺ちゃんも、そうだった?」
哲司には、信じられない気持がある。
「ああ・・・、哲司のお母さんを含めて、娘達をよく叱ったもんだ。」
「へ、へぇ~・・・、そ、そうだったの?」
哲司は、初めて聞いたような気がする。
「このタマネギだってそうだ。」
「ん?」
「タマネギは土の中に出来る。それを掘り起こして収穫するんだが、土の中から掘り出したら2~3日はそのまま土の上に放っておくんだ。決して、その日に家の中に取り込んだりはしないんだ。」
「ど、どうして?」
「さあ、どうしてなんだろうな。そうすることで、タマネギらしい美味しさが生まれてくるからなんだろう。
そして、それからは、今度は日光に当てないようにして、日陰の風通しの良いところに束ねて縛って吊るしておくんだ。」
「へ、へぇ~・・・。そ、そうなんだ・・・。」
「それと同じで、生まれてきた子供にも、それなりのルールってのはちゃんと教える必要があるんだな。」
祖父は、そう言って鍋の中から、そのタマネギを取り出した。
(つづく)