第9章 あっと言う間のバケーション(その90)
「た、食べてみたいなぁ~・・・。」
哲司がふと興味有りげに言う。
クジラの肉ってのが想像できなかったからだ。
「ん? クジラをか?」
祖父が笑いながら問い返してくる。
「う、うん・・・。どんな味がしたんだろうって・・・。」
「そ、そうだなぁ~・・・。今、普通に食べている牛や豚なんかよりは硬かったような気がするなぁ~。
それでもな、昔は、牛や豚の肉って高くってな。なかなか買えなかったんだ。
その点、クジラの肉は比較的安かった。だから、一般家庭でよく食べられたんだな。
肉の質で言えば、今の牛や豚の方がずっと美味いんだろうと思う。」
「そ、そうなの?」
「それでも、爺ちゃんは好きだった。何しろ、世界中で一番大きな生き物だからなぁ。
それに、常に海の中を移動しているだろ? その力強さを貰っているような気がして・・・。」
「んん! クジラって、象よりも大きいの?」
哲司は、その大きさに実感が沸かなかった。
「ああ、象の何倍かあるだろうな。」
「じゃ、じゃあ、恐竜とは?」
哲司のイメージでは、恐竜が一番大きな生き物のように思えていた。
「さ、さあ・・・、どうなんだろう。爺ちゃん、恐竜を見たことがないからなぁ~・・・。
何だったら、学校が始まったら、図書室にでも行って、恐竜とクジラの大きさを調べてみると良い。」
祖父は、そう言って苦笑いをした。
「う、うん・・・、そ、そうするよ。」
哲司はそう答える。
祖父の口からその答えを聞けなかったことは少し残念だったが、それでも、昔はクジラの肉を食べていたんだってことを知った意味は大きかった。
「哲司、もう揚がってるぞ。」
祖父が鍋の中を指差して言ってくる。
先ほど哲司が入れたもののことだろう。
「う、うん・・・。」
哲司は、また菜箸を持って、タマネギ、人参、サヤエンドウを皿の上に取り出してくる。
少し慣れてきたのか、長い菜箸にもさほど苦労はしなくなっていた。
「食べるのは、少し待ってからにしろ。そうして、紙の上に置いておくだけで、余分な油が取れるからな。それが取れてから、塩を付けるようにするんだ。」
「う、うん・・・、分かった。」
哲司は、「なるほど」と思いつつ、揚がった野菜を見ている。
確かに、その下の紙の色が少し変わってきていた。
祖父は、そのことを言っているのだろうと思った。
「そうそう、その岩塩との出会いなんだが・・・。」
祖父が思い出したようにそう言ってくる。
(つづく)