表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
900/958

第9章 あっと言う間のバケーション(その89)

「嘘だと思うのなら、他の野菜なんかも食べてみな?

そうすれば、きっと、爺ちゃんが言っている意味が分かる筈だ。」

祖父は、そう言いながら、鍋の中から幾つかの野菜を取り出して自分の皿へと持っていく。


「う、うん・・・。」

哲司は、そうした祖父の動きを真正面に捉えながら、また菜箸に持ち替えて、次の食材を探しに行く。


「哲司、ひとつひとつじゃあ食べる前に腹が膨らんでしまうから、幾つかのものを一遍に入れて揚げる方が良いぞ。」

「う、うん、分かった。」

そう言ったものの、哲司は次の食材がなかなか決められなかった。

それだけ、いろんな野菜が並べられていた。


「う~んと・・・。」

哲司は、そう言いつつも、タマネギを選んだ。

タマネギの天麩羅が好きだったこともあるし、それに、崩れないように爪楊枝が刺してあるのが目に付いたからだった。


「それと・・・。」

次に、人参を入れる。祖父が紅葉の形に切ってくれていたからだ。


「ん? 爺ちゃん、こ、これは?」

哲司はとあるものに目が行く。いろんな色の食材の中で、白いものがふたつあったからだ。


「卵だ。ウズラのな。それも、美味いぞ。」

「じゃあ、これは?」

「それ、分からんか?」

「う、う~ん・・・。」

「餅だ。」

「ええっ! お餅?」

「ああ・・・、火が通りやすいように、少し小さく切ってはあるんだが・・・。」

「ヘェ~、お餅も揚げられるの?」

「ああ・・・、他のものよりは、多少は時間がかかるんだが・・・。パリパリとした食感があって・・・、それもまた美味いもんだ。

でも、そいつは、最後の方が良いかもしれんな。おかずには不向きかも・・・。」

「ああ・・・、そ、そうだね・・・。」

哲司も、餅とご飯の組み合わせを思って言う。

で、3つ目の食材にサヤエンドウを選んだ。色が綺麗だった。


「昔は、ここにクジラの肉もあったりしたんだが・・・。」

祖父は、そうして自分が食べるものを自らの手で揚げていく哲司のことを見ながら言ってくる。


「ええっ! クジラ? クジラって、あのでっかいクジラ?」

「あははは、そうだ。今じゃ捕鯨ってのが禁止されているから、なかなか手に入らないんだが、昔は、そうだな、少なくとも哲司のお母さんが子供の頃までは、クジラの肉も一般家庭で食べることが出来たんだ。」

「そ、それって、美味しいの?」

「ああ・・・、美味かったなぁ~。もう、殆ど、その味は忘れてしまったんだが・・・。」

「・・・・・・。」

哲司は、鍋の中に、小さなクジラが浮かぶのを想像した。



(つづく)







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ