第9章 あっと言う間のバケーション(その88)
「う、うん・・・。」
哲司は、その岩塩をつけたウインナーの蛸を口へと運ぶ。
「熱いから、気をつけろよ。」
祖父がそう注意してくる。
「う、うん・・・。」
哲司も、口元に近づけた時点で、そのことには気が付いていた。
その熱気を唇が感じたからだ。
「ふぅ~、ふぅ~、ふぅ~・・・。」
哲司は自分の息を吹きかけて冷ます。
それから、徐に口の中へと入れる。
「ほふほふほふ・・・。」
十分に冷ましたつもりだったが、そう簡単なものではなかったようだ。
哲司は、火傷をしないようにと、口の中でその蛸を空気と共に回転させる。
予想した以上に、まだ熱かったからだ。
「ん? だ、大丈夫か?」
祖父が苦笑しながら訊いてくる。
「う・・・、うん・・・、だ、大丈夫・・・だよ・・・。」
哲司は、ようやく歯でウインナーを噛むことが出来るようになってから、途切れ途切れにだがそう答える。
「う、うわぁ~!!! お、美味しい!」
「だ、だろ?」
祖父は如何にも満足そうに言う。
「こ、こんなに美味しいウインナーって初めてだよ!」
哲司は本心からそう言った。
もともとウインナーは好きだったが、これほどまでに美味しいって思ったことはなかったように思う。
「あははは・・・。でもな、特別なウインナーじゃあないぞ。普通にスーパーで売ってるものだ。」
「う、うっそう~・・・。」
「あははは・・・、嘘じゃあない。哲司がここに来た夜に出されたものと同じものだからな。お母さんが来る時に買ってきてくれてたんだ。」
「ええっ! そ、そうなの?」
そう言えば、ここに来るとき、母親が「哲司、これ好きでしょう?」と言って、駅前の食料品店で買ってくれていた。
田舎の料理が口に合わない場合を考えてくれていたのだろう。
「じゃ、じゃあ・・・、どうして? この岩塩のせい?」
哲司は、美味しく感じるのはそうに違いないと思って言う。
いつものウインナーだとすれば、違うのはその岩塩だけだ。
「ま、それもあるかもしれんが、ひとつは、自分で揚げて、それをすぐに食べたからだ。」
「ん? ほ、本当に?」
「ああ・・・、作る楽しみが加わったんだからな。」
祖父は、鍋の中から野菜を取り出しながらそう言ってくる。
(つづく)