第9章 あっと言う間のバケーション(その84)
「お、お兄ちゃんって・・・、爺ちゃんに、お兄ちゃんがいたの?」
哲司は初めて聞く話に目を丸くした。
「ああ・・・、ふたりのお兄ちゃんと、ひとりのお姉ちゃんがいたんだ。で、ひとりの妹もな・・・。」
祖父は懐かしそうにそう説明してくる。
「じゃ、じゃあ、5人兄弟?」
哲司は単純に足し算をして言う。
「そうだ。当時としては、まだ少ない方だった。近所じゃあ、7人兄弟8人兄弟の家もあったぐらいだしなあ~・・・。」
「ええっ! 8人兄弟?」
哲司には信じられない数である。
「爺ちゃんが子供の頃は、それぐらいの兄弟がいるのが普通だったんだ。
爺ちゃんが知ってる限りでも、最大は12人兄弟って家があったぐらいだ。」
「じゅ、12人! それって、1ダースってこと?」
「おお、そうだ。よく知ってるな。」
「す、すっご~い・・・。」
「そうだなぁ~、1ダースの兄弟だと、一番上の子と一番下の子は親子ほど歳が離れていたからなあ・・・。だから、そうなると、まるで上の子が下の子を育ててるような、そんな感じもあったぐらいだ・・・。」
「へ、へぇ~・・・、そうだったんだ・・・。」
そうは言っても、そうした実感が沸く筈も無い哲司である。
哲司はひとりっ子で、それがごく普通と思って生きてきたからだ。
「そのふたりの兄ちゃんが持ってた本を黙って借りてきてな・・・。それを布団の中で読んでたんだ。
もちろん、読めない漢字もあったし、訳が分らない言葉もたくさんあったんだが、それでも、爺ちゃん、そうした本が面白くってな・・・。で、そうこうしてるうちに、国語だけは好きになっていったんだ。」
「へぇ~・・・、そ、そうだったんだ・・・。」
「だから言っただろ? あっ、これ面白いとか、これもっと知りたいとか、そうした興味や関心があれば、それが勉強する絶好のチャンスなんだって・・・。
爺ちゃん、そうして、お兄ちゃんの本を盗み読みしてるうちに、段々、漢字も読めるようになったし、日本語そのものに興味が沸いてきたんだな。
だって、そうだろ?
お兄ちゃんたちが読んでる本だぞ。そこに書いてあることが分かるようになってくると、お兄ちゃんたちに追いつけたように気になってな・・・。」
「ああ・・・、そ、そうか・・、そうだよねぇ・・・。」
哲司も、祖父が言っている意味は何となくだが分かるような気がした。
「おおっ! もう、いつでも行けるぞ。」
鍋の様子を見て、祖父が言ってくる。
「んん? もう、食べられるの?」
哲司は言葉を言い間違った。それほどお腹が空いていた。
「どれからでも、哲司の好きなものから揚げてみな。」
祖父はにっこり笑ってそう言ってくる。
(つづく)